第34話 神殿の見学
「今日は神殿を見学に行こうか」
「おー」
今日の予定を告げると莉緒が元気よく答えてくれる。昨日アーニャから話を聞いて、とりあえず見に行こうということになった。オーダーメイドの衣装の値段も、いつごろ出来上がるかも不明なので、予約はまだするつもりはない。
「えへへ。神殿ってどんなとこだろうね?」
「地球で言う教会みたいな感じかも?」
中央広場から北東にまっすぐ伸びる参道を歩いていく。神殿に近づくにつれ、神官服姿の人が増えていく。
うーん、なんとなく召喚されたときに初めて会った王女と大神官の爺さんを思い出してもやもやする。莉緒も同じ思いなのか、眉間に皺が寄っている。
「まあここには王女とかいないだろうし、気にしないようにしないとな」
「そうだね」
しばらく歩くと石造りの大きな建物が見えてきた。パルテノン神殿のような石柱が、少し高台になっている部分の周囲に張り巡らされている。
階段を上がって石柱の間を通り抜けて神殿の内側へと進むと、奥にまた石造りの建物があった。屋根の上には鐘が設置されている。入り口に扉はなく、誰でも入れるようだ。
中に入ると、長椅子が並ぶ礼拝堂のような場所になっていた。
「まさか予想通りとは」
「ホントに教会みたいね」
役割だけかと思いきや見た感じも教会だ。ステンドグラスのようなものはないが、奥の祭壇には神様と思われる像が祀られている。白髭白髪の爺さんではなく女神様みたいだ。
爺さんどこ行った?
そもそもこの世界の神様じゃなかったのかな?
まぁ今更どうでもいいけど。
「思ったより広いわね」
長椅子が四つ並んでいて、その列が二十くらいありそうだ。
ちらほらと椅子に座ってくつろぐ人や、祭壇の手前にいる偉い神官様と話をする人、女神様へ祈りをささげる人など様々だ。
「エルライト神殿へようこそいらっしゃいました。本日はどのようなご用件でしょうか?」
入口の脇から中を観察していると、一人の神官服の女性が話しかけてきた。二十代前半に見える、すらっとした体型で大人の雰囲気を感じさせる。にしても神殿の名前はエルライトっていうのか。やっぱり宗教関係なのかな。
「ちょっと見学に来ただけなのでお構いなく」
「わかりました。ちょうどこれから結婚の儀も行われますのでぜひ見て行ってください」
マジですか。それはぜひ見てみたいけど、公衆の面前でやるのか。それはそれでちょっと恥ずかしい気がしてきたけど……。
「そうなんですね!」
莉緒はすごく食いついている。結婚の儀について教えてくれたアーニャみたいになっている。
しばらく待っていると小奇麗な服を着た十代後半と思われる男女が、少し緊張した表情をしながら神殿へと入ってきた。女性神官としばらく話をしたあと、『ガランガラン』と屋根の上から鐘の音が聞こえてきた。
「あれ、人が集まってきた……?」
「みたいだな。もしかして結婚の儀ってあの鐘の音が合図になってるのかな」
鐘の音をきっかけにしてか、ぽつぽつと人が神殿に入ってくる。
女性神官と話を終えた二人の男女は、そのまま手をつないでゆっくりと祭壇へと向かうと
「幸せな時も、困難な時も、富める時も、貧しき時も、病める時も、健やかなる時も、死がふたりを分かつまで愛し、慈しむことを誓いますか?」
「「誓います」」
神官の言葉に新郎新婦が声を合わせて答えると、女神様の像から柔らかい光が伸びてきて二人を包み込んだ。
「「「おめでとう!」」」
爆発的に周囲からおめでとうの野次と拍手が飛び交う。俺たちもその場に乗せられておめでとうと拍手を送っていた。
立ち上がって退出していく二人の背中を叩きながら、周りの人がお祝いの言葉と共に送り出していく。
「なんか、見ず知らずの人たちから祝われるってのも、悪くないな」
「うん……」
ポーっとした表情で、神殿から退出したあとの入り口を眺め続けている莉緒。まだ余韻が残ってるみたいだ。
にしても女神様の像光ってたよな。さすが異世界というか、結婚の儀には神様の関係するような魔法か何かの恩恵が必要ということだろうか。
「そろそろ帰ろうか」
そっと莉緒の手を握って二人で神殿を後にする。一番見たいものは見れたし、神殿に来たかいがあった。浮ついた気分のまま中央広場を経由して街の西にあると聞いた服飾店に向かっていると。
「お前たちがシュウとリオか?」
帯剣して皮鎧を着込んだ男の四人組に声を掛けられる。
「はい? そうですけど……?」
何の用だと思いながらも首をかしげるが、男四人の顔に見覚えはない。
「悪いが衛兵詰め所まで来てもらおうか」
「へっ?」
莉緒が素っ頓狂な声を上げているが、俺も同感だ。
「どういうことですか?」
「ふん。お前たちには殺人未遂と窃盗の容疑が掛かっている」
「はぁ?」
何言ってんだコイツ。
「さっぱり心当たりがないんですが」
思い返してみてもまったく心当たりがない。何せ魔の森から出てきて数日しか経っていないんだから。人との接触自体がごくわずかだ。冒険者ギルドで登録して、魔の森でちょっと仕事して……。
「とにかく、話を聞かせてもらうから衛兵詰め所まで来るんだ」
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