第3話 無職の待遇
「しばらくは皆様に、この世界の常識などを学んでいただきます。また職業が決まった皆様には、それぞれの職業に合った講師をつけて午後に訓練をしていただきます。現在講師を選定をしていますので、すべての人選が済み次第となりますが――」
うーむ。無職な俺はどうなるんだろうか。非常に気になるところだ。それにしても他のクラスメイトはどんな職業だったんだろうな。やっぱり勇者とかいるのかな。
「ではこれから夕食をこの部屋に運ばせますので、皆様はこのまま待機していてください」
説明をなんとなしに聞き流していると、どうやら最後まで終わったようだ。神官服姿の二人が出ていき、部屋にはクラスメイトだけとなる。
どこからともなく大きなため息が聞こえたかと思うと、気を抜ける間もなくメイド服姿の女性がワゴンを押して部屋へと入ってくる。
「さすがに腹減ったから助かる」
一番に口を開いたのは
「そうね。お腹が空いてるといい考えも浮かばないし」
追随するように、生徒会副会長の
「お食事の用意ができました。おかわりなどあればお申し付けください。またお食事が終わりましたら各自お部屋へと案内させていただきます。明日午前中に行われる講義までご休憩ください」
テーブルへと料理が次々と運び込まれたあと、一人のメイドさんだけが扉の所に控えてそう告げた。
部屋にはいい匂いが充満していて、料理の見た目は美味しそうである。異世界の料理事情はわからないけど、あと問題があるとすれば味か。
「とりあえず食べようか……」
清水の言葉をきっかけにしてみんなも食事を開始した。
晩ご飯は美味しかった。使われている食材はよくわからないけど、見た目や味などは洋食に近いものがある。ご飯はなくてパンだったが、異世界最初に食べる食事なので今後に期待か。
「にしても、個室とは……」
夕食を食べてすぐに案内された部屋を見回してみる。三畳ほどの広さの部屋にベッドがひとつあるのみの狭い部屋だ。テーブルや椅子もなく、寝る以外に何もできそうにない。
他の部屋は見ていないので、この狭い個室は俺だけなのかどうかはわからない。
「そういえば誰も話題にしてなかったけど、異世界に来たからにはこれだけは試しておくか……。ステータスオープン」
しかし何も起こらない。
うーん。神様が言ってたスキルって話を聞いたから、ステータスみたいなものが見れると思ったんだけど……。それはそれとして、あの水晶は何をもって職業を判定してるんだろう。
考えてもわかるはずもなく、他にやることもない。親しいクラスメイトがいるわけでもないし、寝るか……。
さすがに今日はいろいろあったためか、ベッドに入るとすぐに寝てしまった。
翌朝早くに起こされた俺は、何故か厨房で謎の野菜の皮むきをやらされていた。この世界の常識を教えてくれるんじゃなかったのか。いや待て、朝食の仕込みということはまだ朝も早すぎる時間帯だ。きっとこのあと講義を受けられるに違いない。
「よう兄ちゃん。無職だったらしいじゃねぇか」
「ええ、まぁ……」
俺に仕事を教えてくれている、浅黒い肌をした副料理長がさっそく職業の話題を振ってきた。
「まぁ職業が出る人間なんて半分もいないんだ。そう悲観することもねぇさ。こうしてずっと仕事を続けてりゃ職業が出る可能性もあるしな。ガハハハハ!」
講義を受けられる可能性がゼロになってしまった。ずっと仕事を続けるとかなんてこったい。これが無職の境遇なのか。しかしそのうち職業も出てくる可能性はあると……。なんとなく低そうな予感しかしないけど。
「半分もいないんですか?」
「あぁそうだぞ。だいたい四割くらいかな? その中の半分くらいがしっかり職業が表示される割合で、他は薄らと出る程度らしい。それでも無職に比べれば有能なんだがな」
ほほぅ、薄ら表示された柚月さんはそれなりに使えるということか。でもせっかく召喚までした人物が、ちょっと優秀な一般人レベルと考えれば微妙かも。
「よし、朝食も仕上がったし、オレたちも飯にするか!」
出来上がった朝食をワゴンに乗せ、メイドたちへと手渡した副料理長がそう言って俺を誘う。
えーと、今メイドが持って行った料理ってクラスメイトの朝食ですよね。話を聞く限り俺は料理人たちと一緒に朝ごはんですか? この待遇、まったく嫌な予感しかしないんですけど……。
流されるままに厨房の隅に置いてあるテーブルの上を片付けると、他の料理人たちと共に朝食を摂る。
「あ、美味しい」
「ガハハハ! そりゃそうだろう!」
「副料理長の作る賄い飯は、普通に出してる料理より美味いんだからな!」
誰かが副料理長のプチ情報を教えてくれる。待遇には危機感を覚えたが、料理人のみんなは無職の俺に普通に接してくれるようだ。
そしてこの嫌な予感は見事的中することとなる。
常識の講義や訓練などが行われることもなく、そしてクラスメイトの誰とも接触することもなく、料理の下働きや雑用をやらされるだけの日々が一週間続いた。
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