第2話 遅刻しての召喚
「へぶっ」
気が付けば地面とキスしていた。というか地面に顔面を打ち付けて覚醒したとでもいうか。もうちょっとマシな召喚方法はなかったのかと小一時間問い詰めたい。
周囲を見回してみると、見知った顔とそうでない顔が全員こっちを見ている。みんな無言なのですげー気まずい。
クラスメイトは俺以外に八人。男女ともに四人ずつのようだ。それ以外には神官っぽい服を着た女の子が一人と、同じく神官っぽい爺さんが一人いる。
地面には巨大な魔法陣が描かれている。地下なのか空気はひんやりしていて、地面や壁、天井に至るまで石造りになっている。
「ナニコレ……」
「……どうやら最後の勇者様が現れたようですわね」
キョロキョロしていると一番前にいた神官服を着た女の子がこちらに一歩踏み出してきた。
「水本くんですか」
「お前も来てたのか……、ってかすげー遅刻じゃね?」
すかさず反応したのは、クラスの中心的な人物である
俺を見るクラスメイトの表情はそれぞれだ。ニヤリと笑みを浮かべる奴も何人かいて、思わず眉間にしわが寄ってしまう。
「おおよその説明は終わってしまったが、ここで止めるわけにもいかん。よくわかっていないだろうが、とりあえずこの水晶に触れてくれ」
「ははっ、お前には何の職業が出るか楽しみだな」
神官服の爺さんに続き、真中の言葉にさらに眉間にしわが寄ってしまう。職業ってなんだ? ……スキルじゃないの?
そういえば神様にはどういった世界の国に召喚されるか聞かなかったけど、なんかシステムが違うのかな?
「自分が得意としてることを生かした職業がわかるらしいぜ」
真中ってこんなにしゃべる奴だったっけ。ゲーム好きからするとこのシチュエーションはテンション上がるってことか。
とりあえず水晶を触りに行くか。爺さんの傍にある水晶に手を触れるとほんのりと光り、すぐに消えてしまった。
「ぶはっ、マジか! 無職とか!」
「あっはっは!
爆笑する真中に続くように、髪を明るく染めた
「えーっと……」
「では移動しましょうか。皆様ついてきてください」
何のことかまったくわからないままキョロキョロしていると、神官の女の子がそう告げて部屋を出ていく。置いていかれないようについていくと、俯いて歩く
わかってはいたけど、こうして並ぶと女子の柚月さんより俺の方が背が低い。というかここにいるクラスメイトの中で俺が一番低そうだ。なぜもうちょっと小柄な女子が召喚されなかったのか。
「あの、柚月さん。わかんないことだらけなんだけど、いろいろ聞いていいかな」
「あ、うん」
肩下あたりまで伸ばしたセミロングの髪が揺れる。若干ぽっちゃりとした体型とほんわかとした雰囲気のある彼女だが、今は表情に影が見える。どうやら柚月さんの職業は『魔法使い』みたいなんだけど、どうも
神官二人の名前は、女の子がリリィ・アークライト。なんでもこのアークライト王国の第三王女だとか。そして爺さんが大司教でセルビスタ・リーグレットというらしい。その二人からの話をまとめると、ありがちな展開だった。北にある魔族の国に魔王が出現して攻めてきたらしく、これを撃退してほしいとのこと。
「なるほど……。地球から俺らを拉致った挙句に戦場に送るとかロクでもない国だな……」
「ええぇぇ……」
俺の言葉にドン引きする
「しかも魔王を殺せば元の世界に帰れるってのが特に怪しい」
何せ神様に『できないことはないけど意味がない』って言われたからね。神様とこの国のどっちを信じるかって話でもあるけど、そもそも召喚に頼ったりする国は怪しさ満点である。
「じゃあどうするの?」
胡散臭いものを見るような視線が痛いです。ロクにしゃべったこともない俺の話は信じられないというのはわかる。
「それなんだよなぁ……」
逃げ出したいとは思うけど、何も知らない状態でここから抜け出すのも危険だ。
「この国のスタンスもまだ不明だから」
「スタンス?」
「そう。俺らを奴隷のごとくこき使いたいのか、ちゃんと給料とか払ってくれるのかはもちろんだけど、無職判定された俺と柚月さんの扱いがどうなるのかとかね」
「……あなたと一緒にしな――」
「もちろん面と向かって奴隷のごとくこき使いますとか正直に話してくれるわけないから、説明があったとしてもあんまり信じられないよ」
言葉を遮ってさらに続ける。無職じゃなくても安心できる根拠なんてどこにもないのだ。
「……確かに、そうね」
そんなやりとりをしているうちにどうやら目的地に着いたようだ。先頭を歩いていた第三王女が廊下突き当りの部屋へと入ると、俺たちもぞろぞろと続いた。
そこは会議室のような広い部屋で、二十人ほどが座れる長テーブルが置いてある。
「みなさん順におかけください」
上座にあたる二席に第三王女と大司教が腰かけると、クラスメイトも次々に席へと着く。
「では、職業がはっきりした皆様の今後の方針について連絡します」
そして何か引っかかる言い方をする第三王女の言葉で話が始まった。
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