雷鳴
あぶらみん
第1話 雷鳴が告げるもの
それは雷鳴に似ていた。
空気を引き裂く音が響いた。
全身に力を込めると、ミチミチと音を立てて敵の一部が姿をあらわす。
ためた息を吐ききってから大きく息を吸い、再び力んだ。
何度か繰り返すうちに、徐々に敵がこちら側へと押し出されるのを感じた。
あと少しだという予感がした。
「ハアっ!」
トドメとばかりに気合いの声をあげた。
ボトッ。
一度出してしまえばあとは簡単だった。
ボトッ!ボトボトボトッ!
こ気味良い接地音のあと、狭い個室に臭気が立ち込める。
不愉快なはずのその臭いも、死力を尽くした末の勝利の余韻だと思えば逆に心地いい。
「人間とは不思議なものだ」
俺は身体の穢れを落としながら誰ともなしに独りごちたあと、穢れの揺蕩う器を濁流をもって清めた。
黒々とした、まるで呪いのようなそれは渦を巻く水と共に深い闇の中に消えていった。
扉を開けて戦地より日常に戻ると、目の前に血を分けた我が肉親の女性が仁王立ちしていた。妹だった。
妹は不機嫌そうに俺の顔を睨めつけていた。勝利の祝杯をあげにきた、というわけではないようだ。
訝しみながら扉の前から離れると、妹は風のようなはやさで戦地に入り込んだあとに、言った。
「うげぇ…お兄ちゃんの後、くっさ!うんち、くっさ!」
「フッ」
俺は涼しげに笑い、逃げるようにその場を去った。
雷鳴 あぶらみん @ttmmoo
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