第9話 支部長への報告


「俺達はこの町に初めて訪れたのだが、この町には伝説の赤ずきんがいるのだろう?」


 ジャン達と対面したアリアは二人に見覚えがあった。


 ハンター頭巾にはランク分けというモノはないのだが、有名になってくると否が応でも名が売れてしまう。

 伝説の赤ずきんであるレベッカやクロード、そして黒頭巾であるアリアも現役時代に活躍していて、有名になったのだ。

 アリアの目の前の二人も飛びぬけて有名というわけではないが、鞭使いのシャンティと急所狙いのジャンという二つ名を持っていた。

 そんな二人も伝説の赤ずきんの顔を見る為に才能の無いレイチェルを利用したのか……と少し落胆していた。

 アリアはそう思っていたのだが、二人に依頼したのがレベッカの娘であるソフィと聞いて少し驚いた。


(ソフィがレイチェルを利用しようと考えている者に護衛を任すと思えない。もしかしたら、私は思い違いをしているのか?)


 そう考えたアリアは、街道で倒したと言っているオオカミについて話を聞いてみた。

 先ほどジャン達が聞いたように、この町にはレベッカがいる。レベッカの強さはオオカミの本能にもハッキリわかるそうで、町に近づいてくるどころか、ジャン達の報告にあった場所でもオオカミを見た事はなかった。

 

「君達に質問なのだが、警備隊が加勢してくれたのかい?」

「そうだ、その事も聞きたかった。この街道ではオオカミが出ても警備隊は動かないのか?

 死体を燃やしていても一向に現れなかった。もしかして、警備の穴を衝かれたか?」


 ジャンのこの言葉にアリアは耳を疑った。

 オオカミが現れたにもかかわらず、警備隊が現れなかった? 死体まで焼いているのにか? 

 オオカミの死体を処理する方法はいくつかある。

 変異した元の動物にもよるのだが、食肉になりそうなモノは全身売る事が出来る。

 しかし、中にはネズミや虫の様な売りようのない素材も存在する。その場合は、ジャン達がやったように燃やすのだ。

 普通は生物を焼き尽くそうとすれば、圧倒的な火力が必要なのだが、ハンター頭巾協会が用意している特別な油で焼けば骨すら残らず燃え尽きる。

 しかし、一瞬で燃え尽きるわけではなく、時間はかかる。


(こいつ等が売りに来たのは尻尾。

 実際に見たわけではないから、何の尻尾かまでは特定は出来ないが、この二人の様な名の売れたハンター頭巾であれば的確な部位を持って帰ってくるはずだ。

 そこから考えられるに、ネズミが変異したオオカミだったんだろう)


 ネズミ型は比較的身長の低いオオカミだ。

 しかし、そんな大きさのオオカミですら焼き尽くすまでは一時間はかかる。


(最低でも一時間は焼いていると考えてもいいだろう。たとえ警備の穴を衝かれたとしても、一時間もオオカミを焼いているところを気付かないとは思えない)


 現に、アリア達のいる国の警備隊は、とても優秀で並みのオオカミ程度なら無傷で倒せるほどの猛者揃いだ。

 それに、彼等はハンター頭巾よりもオオカミの気配には敏感だ……。

 アリアの胸に言い知れぬ不安がよぎる。


「一応聞いておきたいのだが、倒したオオカミの特徴を聞かせてくれまいか?」

「あぁ、特に特徴はなかったと思うが……」


 アリアはジャンの説明を聞き、飲んでいたコーヒーを噴きそうになってしまった。


(コイツ等はアホなのか?)


 アリアの正直な感想はこうだった。

 話を聞く限り、再生能力のないオオカミはレア個体・・・・であり、珍しいというだけではなく、再生能力を犠牲にしているからか戦闘能力がズバ抜けて高い。


 話を聞いてジャン達に憧れたが、ある可能性に気付いてしまう。


(こいつ等は名のあるハンター頭巾だ。場数も踏んでいるというのに、こんな馬鹿な事を言うか?)


 アリアの頭にレベッカの顔が思い浮かぶ。そして、思い出す。


(こいつ等はレベッカの孫のレイチェルちゃんを護衛してきたはずだ。あの子は戦闘能力がないと聞いていたが、効率のいい戦い方を思いつくとも聞いた事がある)


 そう考えれば、ジャン達を使った人物・・・・・が存在していて、それがレイチェルでないかと予想した。

 そして、ジャン達が街道で戦ったオオカミを過小評価・・・・しているのは、レイチェルのおかげで簡単に倒せたからではないのか……と。


「分かった。報告ご苦労……」


 アリアはそう言ってジャン達にオオカミ討伐の報酬を渡しレベッカの元へと戻らせる。

 

 しかし、意外だった……。

 アリアからすればレイチェルはただ戦い方に気付くだけの無能だと思っていた。

 とはいえ、差別をするつもりもないし、ハンター頭巾達に差別させるつもりはない。そう考えていた……。


「アイツ等は気付く事はないだろうが、レイチェルちゃんの指示がなければこの護衛は失敗していただろう……。しかし、なぜ街道にオオカミが?」


 万が一で言えば、もしかしたら迷い込んできたのかもしれない。それならば警備隊がオオカミに気付いているはずだ。

 それがなかったとしたのならば……。


「全滅しているのか?」


 警備隊の強さを考えれば、生き残りがいるのが普通だ。しかし、国から何も言ってこないところをみえると……。


「全滅か……」


 考えたくはないがアリアにはそうとしか考えられなかった。

 一時間もオオカミを焼いているのに、やってこない警備隊。


 アリアは席を立ち、ハンター頭巾協会本部に報告をする為、通信機を起動させる。

 これは遠く離れた人物と話ができる魔道具で、かなり高価なモノだ。


『こちらハンター頭巾協会総本部です』


 通信機からは女性の声が聞こえてきた。

 アリアは咳ばらいを一度して「コラシオンの町の支部長、アリアだ。国への要請をしたいのだが?」と話す。

 すると、しばらく沈黙が続いた後、老父の声が聞こえてきた。


『アリア、お前が通信機を使って来るとは珍しいな。何があった?』


 この声の主は総本部長だった。

 アリアはジャンから聞いた話と、警備隊の捜索要請を頼んだ。

 事が事なので、総本部長との会話を最低限にし、国への要請を最優先とした……。

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ずきんなしのレイチェル ふるか162号 @huruka162

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