生きていく

昼昼

第1話

私はどこにでもいる、ありきたりなJKってやつだと思う。

少なくともそう見えるように生きてきた。

趣味なんてないし、生きる目標も目的もなく、今を生きている。今が大切って訳じゃないけど、未来のことなんて考えてない、全能感に浸っている、社会を知らない学生。そんなふうに見えていると思う。

でもそれは本当の私じゃない。世を忍ぶ仮の姿…それはカッコよすぎるか。

単純に誤魔化して生きているだけ、ほんと、どこにでもいる子供でしょ?


私はこのまま生きていくのだと思っていた。周りに合わせて、表情も取り繕って、全部嘘だらけで。

みんなそうだから仕方がないかなって思っていたの。

一言、たった一言で世界が変わることを私は知っているから。


「キモイな」

昔好きだった男の子の言葉。中学生の頃。

私と彼はばったり、お店の前で出会ってしまったの。


これが虫とかゾンビとかに向けられていたらどれだけ良かったんだろう。

迷いなく私も撃っていたから。

でも、これは私に発射された弾丸。

避けられたかもしれない。あるいは跳ね返せたかもね。

でも私には無理だった。

盲目な私にはどうやっても躱せなかった。受け流せなかった。

それは私の胸を穿ち、そして、私の世界を変えてしまった。

盲目が治ったのは不幸中の幸い。

でもそれ以上に後遺症を残し、私はベッドに寝たきりになってしまった。


私は気付いていたのかもしれない。

自分が他の人とは違うこと。

自分の都合のいい世界を作って、その中に引きこもっていた事。

でももう良かった。

大海を知れた。

そう思うことで私の心の平穏は保たれていた。


中学校から高校へ。

人生には転機がある。私は変わった。

刺激的な世界にはもうこりごり、これからは凪のような世界で生きていくの。

だから私は勉強したの、色々なこと、例えば、メイクとかね。

化粧は校則で禁止されていたんだけど。

そうやって生きていると、自然に友達が出来て、彼氏が出来て、学校帰りにカラオケで馬鹿騒ぎをして、、、他にもファミレス行ったり、色んなことをしたわ。それこそ、順風満帆と言っても差し支えないであろう日々を送って、生きていた、のだと思う。


そんな世界で、、、そうね、気づいたことがあったの。

私のように不器用にコソコソ生きているか、私のように器用にいるかの2種類の人間しかこの世界にはいないことに。

もちろん器用に生きている方が客観的にいい。

ほら楽しそうでしょう?

教室の真ん中でおしゃべりしている方が、教室の端っこでゲームしているような陰キャよりも。

華があって、何よりぽいじゃない。

帰りに友達と遊んで帰って、華々しい学校生活を送っている方が、1人で誰にも理解されないかもしれない趣味に没頭しているよりもね。



そんな感じで迎えた2年次。

ここが1番の人生の分かれ目、だったのかもね。

1年生の時の友達とは離れ離れになっちゃったけど、すぐに友達はできたわ。

特に仲のいい子が。

その子は明るくて、優しい子だった。みんなと仲が良くて、、、それこそ端っこでゲームをしているような子でも、話しかけて、挨拶して、友達だけど、みんなと仲が良すぎて、妬けてしまいそうだった。


そこで気付いたの。なんで彼女のことが好きになって、仲良くなろうとしたのかに。

彼女、昔好きだった彼に似ていたの。

彼も彼女と同じく、誰でも分け隔てなく接して、みんなと仲が良かった。少なくとも、学校の中では。


でも私はもう失敗しない。

知っているから。

誰もが仮面を被っていることを。


そう思っていたのに。

彼女と2人で帰っていたの。電車の中だった。

私がバックから単語帳かなんかで勉強しようかなって、そう思って取り出そうとした拍子にポロッと。

そう、戒めとして持っていたもの。

あの日、買っていたもの。

私を、この世界に縛り付けている鎖を。

あって思って慌てて拾おうとしたけど、遅かった。

彼女が先に拾って見ていたの。

私は咄嗟に、胸を守ったわ。


「こんな趣味があったんだね!知らなかったよ!なんで言ってくれなかったの?」


私は人生で最速と言っても間違いないほど、頭を回して、思いつく限りの言い訳をした。

そうしたら彼女は不思議そうな顔して、


「いいと思うけどな~」


そう、軽く言って返してくれたの。


それには速さはなかった。

今度はしっかり見えていた。私の胸の中に吸い込まれていく、その瞬間まで。

避けれた。躱せた。受け流せた。跳ね返せた。

…いや、嘘ついたわ。無理だった。私は見ていることしか出来なかった。


パリンって。いや、バキバキだったかな?そう音をたてて何かが私の顔辺りから落ちて、なくなっていった。


そのまま、彼女を街に連れて行って、買い物に付き合わせた。

その時の世界の街には人は言い表せないくらい、沢山の種類がいた。

また盲目になってしまったのかもね。見えるものが全部変わってしまってしたの。


目が熱くなって、涙が零れ落ちてきた。

そんな私を見て、不思議そうな目で彼女はハンカチを差し出してくれたの。

その時の彼女の顔はいつもと変わらなかった。

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生きていく 昼昼 @mi375na

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