とある少年の物語
ソラ
第1話
僕は、勇者になんてなりたくなかった。
でも、最初からなりたくなかったわけじゃない。
"なりたくない"そう思ったのは、数年前に起こった出来事があったから……。
■
僕の家は勇者の家系だ。父さんは現在の勇者で、僕は次代の勇者として、家族から。そして、里の人々から期待されていた。
だから、小さなころから、僕は勇者としての勉強を受ている。
そうすると、父さんも母さんも喜んでくれたから。
里へ行っても、"次代の勇者様だ!"と、里の人々は、そう持て囃してくれる。
そう言われるのは嫌じゃなかったし、"自分が次代の勇者なんだ"って認識できた。
だけど、ある日の出来事が、僕の"勇者になりたい"という夢を引き裂いた。
それは、僕が11歳になる誕生日の事。
その日は勉強が早めに終わり、少しの気分転換のつもりで家をでて、散歩に出かけることにした。目的は、いつも行っている里だ。道は覚えていたので、早速出発することにした。
父さんも母さんも本日は用事があり家にはいない。だから、里へ行くのは僕だけだ。
空はよく晴れ、暖かい日差しの中で歩く散歩道。僕は陽気に鼻歌を歌いながら里へと続く道を歩いた。
今までは父さんか母さんに連れられる以外では出たことのない外の世界、そんなことにでも僕にとっては嬉しかった。
――そんな時の事だった、悲鳴が、聞こえたのは
誰もいない道、平和で自然が沢山の道。でもその悲鳴は、ここには似つかない、悲鳴……。
僕は、それが何なのか確かめるため、急いで声のした方へと走った。
――そこにあった光景は、血を流し地面に倒れている人々と僕の"夢"を壊すには十分すぎる光景だった。
目の前には、後姿だったが、父さんがいた。大好きな父、その背中があった。
その傍には、女の子が居る。小さくて、可愛らしい女の子だ。
だけど様子がおかしかった。女の子は、震えていた。まるで何かに怯えるように。
――何で、怯えてるんだろう?
【お父さんは君に何もしないよ?なのに、何で怖がってるの?】
僕は、知らなかった。
【何で、怯えているの?】
僕は、疑わなかった。父さんが、"正義"を為す事を。
【ねぇ、何で?】
――僕は、"信じすぎていた"
【何も、しないよね?
ねぇ――お父さん】
――それでも、"それ"は止まらない。
父さんは、背中に手を回し、抱えていた剣を手に取ると、そのまま、目の前の少女に向かって、振り下ろした。
「――え……」
少女の身体から、血が流れた。でもその血は真っ黒で――それは、紛れも無く、魔物の血だった。
魔物――魔を呼ぶ物。勇者の、人類の、敵。
父は、魔物を倒しただけだ。そう、倒しただけ。
だが僕には、あの魔物が何もしたようには思えなかった。
確証はない。もしあるとすれば、女の子の服には、人間を殺したら付着するであろう、血の後がなかった。
だけど父は剣を振るった。そして殺した。あの女の子を、あの魔物を、殺した。
父は、勇者としての勤めを果たしただけだ――僕は、そう、納得するしかなかった。
とある少年の物語 ソラ @syuuma_mirr
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