きたく

「ただいまー」


 ようやく家に着き、玄関で靴を脱いでお風呂へ向かう。

 体育で転んで土が付いてしまったというのもあるけれど、体中のゾンビ臭を早く消し去りたくて仕方ない。

 お風呂の脱衣所で制服を脱ぎ、ハンガーにかけて消臭剤を振りまく。どうせ明日には同じようにゾンビに囲まれて臭いが移ってしまうのだが、それでもやらないと気が済まない。

 そして下着は洗濯機に放り込んでから風呂場へ入り、シャワーを出しながらイスへ腰かける。


ギュポ ジャー ショボショボ ショボ


「あーもー、やっぱ中まで入り込んじゃってる。取れるかなぁ」


 思った通り、体育の時間で転んだ拍子に体内まで砂が入り込んでしまっている様だ。

 シャワーの勢いを弱にして、ゆっくりとお腹に向けてお湯をかける。


「んっ…」


 そして柔らかい部分に傷を付けない様に指を這わせ、シャワーから流れるお湯が奥まで届く様に押し広げる。


ピチャ クチャ クチュ


「ん、ぐぅ…」


 自分では見れない場所なので綺麗に流せたかかは不明だけれど、多分これで大丈夫な筈だ。あまり触っていて傷が付いても嫌だし、心配ならお母さんに見て貰えばいいか。


ガタァン


「キャッ!」


 丁度シャワーをお腹から遠ざけた瞬間にお風呂場のドアが開き、思わず体を跳ねさせる私。

 危なかった。もしも中に指を入れている時だったらどうなっていたことやら。


「あーちょっとお姉ちゃん。この時間は私が使うって前から言ってるでしょ! お姉ちゃんはもうちょっと後!」


 お風呂場に現れたのは私の妹。

 最近特に生意気になってきた中学生二年生。昔はあんなに可愛かったのに。


「い、いいじゃないの。臭くて仕方なかったんだし」

「だからお姉ちゃんは後でって言ってるの。この話昨日もしたよ? ねーお母さーん! またお姉ちゃんが先にお風呂使ってるー!!」


 妹はそう言いながら風呂場から出てリビングに居る母親の元へと向かう。


「仕方ないでしょー。お姉ちゃん脳みそが半分なタイプなんだからー!」

「えー」


 そしてリビングに居る母親は私の身体的特徴的に仕方ないのだから我慢しろと妹を諭す。


 そう、仕方ない。分かっている。分かっている事なんだけど、余り認めたくない。

 私の学力が低くてゾンビ用の腐理くさり高校に通わざるを得ないのは、私の脳が普通の人間に比べて半分しか無いから。

 私が幼い時に道で転んで、どこかに脳を落として来てしまったから。

 私はゾンビでも人間でも無く、正中線で分かれている人体模型。片側は皮膚があるけれど、片側は内臓丸出しのタイプ。

 さっきだってお腹の中まで砂が入っていたのを洗い流していたんだし、この体はもの凄く不便。

 まあでも、服や仮面で誤魔化せる分だけゾンビよりはマシなんだと思う。ゾンビは臭いがキツイから見た目だけ整えてもバレちゃうしね。


「あーあ、なんで人体模型の私が動いてんだろ。そんでゾンビの振りなんかしてるんだろ」


 こんなの考えもしょうがない。動いている物は動いているんだし、生きている物は生きている。

 生きている限りは学生は学校に通わなくちゃいけないし、勉強もしなくちゃなんないのよね。

 せめて私もお母さんみたいにお腹だけの妊婦タイプの人体模型か、妹みたいに全身筋繊維タイプの人体模型だったら良かったなぁ。

 はぁ、本当に世の中って不思議だし、ままならない物ね。

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私立!!腐理高等学校ゾビ!!! @dekai3

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