第漆章:持たざる者

第14話:怪異に恋は難しい ※ただし相手の目的が不明だった場合に限る

 『メリーさん』に関する事件は『バルーンだった』という形で表向きには処理された。話題の開始地点だったSNSを見てみると、至近距離で撮影された画像などもあったものの、それらはクソコラだったという形で改竄されていた。翠と同じく、記憶を操れる一族も居るらしく彼女達によって投稿者などの記憶を弄っている様だった。

 しばらく色々と見ていると向かいで宿題をしていた翠のスマホがバイブ振動した。翠は少しの間黙って見ていたが、やがてこちらにスマホの画面を向けた。


「みやちゃん」

「ン~? どうした?」

「知らないアプリ入ってる……」


 何らかの怪異の可能性を感じて受け取って見てみるとホーム画面には見た事のないアプリが入っていた。何故かアプリ名は表示されおらず、何の模様もない真っ白なアイコンをしていた。触っていると僅かだが妖気の様なものが伝わってくるのを感じ、これがただのウィルスアプリなどでは無く、そもそも通常の人間であれば対処不可能なものである事が分かった。


「……怪異っぽいな」

「ど、どうする?」

「……開いてみていいか?」

「う、うん」


 アイコンをタップして開いて見ると真っ白な画面になり、画面の中央に一人の男性が現れた。恐らく三十代と思しき顔つきをしており、白衣の様な物を着ていた。リアルな見た目ではなく、二次元的な容姿をしていた。

 翠はこちらへと周ってきてスマホを覗き込んだ。


「これって……?」

「……何者だ?」


 こちらから問い掛けてみると画面上に映っている男性の横に吹き出しが現れ、そこに返答と思しき文章が表示された。


『僕は多田です。貴方方の助けが欲しくてここに来ました』

「……オイ待ちな。こっちの声が聞こえてンのか?」

『聞こえています。お願いします、聞いて欲しいんです』


 頭部の横から汗の様なものが跳ねるアニメーションが入り、眉が下がっていた。怪異の中には人に害を及ぼさないものも存在するため、意思疎通が可能な相手にはまず事情を聞く事にしていた。


「分かった、何だ?」

『ありがとうございます。実はですね……』


 多田が話した内容は以下の通りだった。彼は元々医者をしていた普通の人間だったが、ある日スマホを触っている時に画面の中に吸い込まれてしまったのだという。特にこれといって異常な行動はしていなかったため、何故そうなったのかは分からないらしく、情報生命体となった後もネットを見て色々調べたが何も該当するものは見当たらなかったらしい。そして自らをアプリという形にする事で様々なスマホに行き、協力を仰いでいるとの事だった。そしてやはり、まともにアプリを開いて話を聞いてくれたのはアタシや翠だけだったらしい。


「……分かりました。それでアタシは何をすれば?」

『助けてくださるのですね! 僕の本体がどこかに居る筈なんです。スマホの中から誰かが僕の体を操って成りすましているのが見えたんです!』

「つまり何らかの怪異が貴方と入れ替わったと?」

『詳しくはよく分かりませんが、少なくともそっちの世界に居る僕は本当の僕じゃない筈です』


 多田は必至な顔つきで手を合わせて拝む様なアニメーションをした。なるべく多田に見えない様にパソコンを操作して多田という医者が居るかどうか調べる事にした。


「え、えっと……下のお名前は何ですか?」

真白ましろです。内科をやってます』

「……分かりました。調べるんで一旦消しますよ」

『あっ出来れば消さないで! 真っ暗になっちゃうんです!』

「悪いんですがこっちの事が見えてる以上はそのままには出来ません」

『待ってください!』

「あっまずい充電がー」


 適当な理由をつけて電源を切るとパソコンへと向いた。翠はかわいそうに思ったのか少しの間スマホとこちらを交互に見ていたが、やがて向かい側へと戻った。そんな中、名前と内科をしているという情報を基に検索を進めていき、いくつかのページを開いていった。


「みやちゃん、あか姉に連絡した方がいいんじゃ……」

「いや、相手が情報生命体である以上は迂闊に話を広めるのはまずい」

「で、でもあの人元は普通の人間なんだよ?」

「……どうだかな」


 多田内科と呼ばれる病院を見てみると彼に対する疑念が生まれた。サイトに載っている多田真白という人物の写真がその理由だった。


「ど、どういう事?」

「見てみろ」


 翠をこちらへと呼んで画面を見せた。すると翠もすぐにその発言の意味が分かったらしく、あっと声を上げた。

 サイトに掲載されていた写真に写っていたのは女性だったのだ。確かに医者であるため白衣を着てはいるが、先程見た多田とは似ても似つかない姿だった。もちろん二次元と三次元の違いというのもあるが、そもそも性別が違っていたのだ。彼の喋り方を見るに恐らく中身も男性であり、この人物が性同一性障害でもない限りは食い違っているという印象だった。


「女の人……」

「アイツの発言も怪しいモンだな。本当に元人間か?」

「で、でも入れ替わった時に性別を変えられる怪異かもしれないよ……?」

「前例は無いな。まあ絶対無いとは言えねェが」


 本棚の側まで這っていき中から資料を引っ張り出して確認してみる事にした。パラパラと見てみると今まで封印されてきた怪異達の名前が次々と目に入ったが、どこにも性別を変化させる怪異の存在などは記録されていなかった。もちろん初めて確認された存在の可能性もあったが、どうにも疑わしかった。そもそも異常な行動がどうとか言っている時点で、普通の人間とは少し違う様な感じがした。


「無いね……」

「仮にアイツが怪異だとして、目的は何だ?」

「うーん……もしかしてこの写真の女の人と入れ替わろうとしてるのかな……?」

「目的は分からねェが、用心はするべきかもな。翠、頼めるか?」


 スマホを机の上へと起き、翠がその周りに『威借りの陣』を敷いた。もし『メリーさん』の時の様にこちらに入り込もうとしてきた場合に抑え込める様にするためのものだった。自分の能力では情報生命体の様な実態が存在しない者に対しては無力なため、この相手に対しては翠の力が不可欠だった。

 電源を点けてアプリを開く。


「多田さん、ちょっといいか」

『あっ本当に消さなくても! それで何ですか?』

「……今ちょっと調べたんですが、多田真白って人物は女性だった。貴方の話と食い違う」

『えっ!? そんな筈ありません!』

「そ、それが本当なんです。女の人の写真が載ってて……」

『うーん……性別も変えられた?』


 ?マークが浮かぶアニメーションが表示され、多田は腕を組んで考える様な素振りを見せた。一度怪しく見えてしまうと全てがワザとらしい動作にしか見えなかった。


「……とにかく詳しく調べるために見てきます」

『僕も連れて行ってもらえないですか?』

「……いえ、こっちで戻し方を確定させてからです」

『……うーん分かりました。ではお願いしますね』

「ええ、じゃあ」


 再び電源を切る。翠が折り紙を回収する中、資料を戻す。


「翠、どうだった?」

「変な動きは無かったかも……私達に害を与えようとはしてないかも……」

「そうか……」


 戻し終えた後すぐに立ち上がり廊下へと向かい、黒電話から姉さんへと連絡を入れた。アプリ内の多田という存在に関してと先程調べた病院の多田医師に関する話をした。すると姉さんは各地の人員に連絡を入れてすぐに調べる様に要請してくれるとの事だった。それを聞き終えると電話を切り、居間へと戻った。


「あっみやちゃん。どうだった?」

「調べてもらえるそうだ。こっちでも分かる範囲で調べよう」

「うん」

「それと、そのスマホをどっかに置いてきれくれ」

「えっ、どうして?」

「念のためだ。多田の発言には怪しい部分がある。本当に電源を切るとこっちを認識出来なくなるのかも定かじゃない、アイツの自己申告だからな」

「わ、分かった……」


 そう言うと翠はスマホを持ち居間から出て行くと数分経ってから戻ってきた。どこに置いたか聞いてみるとどうやら台所にある電子レンジの上に置いてきたらしかった。

 翠が隣に座る中、SNSで多田という名前と病院に関して『てんとう』に検索させた。するといくつかヒット自体はしたものの、病院そのもののアカウントは引っ掛からなかった。これ自体はアカウントを持っていないという事で納得が出来た。しかし少し気になったのはその評判だった。普通どんな店もアンチが付くものであり、利用者やアンチによって様々なレビューや評価が存在する筈だった。しかしこの医院に関しては何故か好意的なレビューや評価しか存在していなかったのだ。


「翠、これどう思う」

「どうって?」

「こういうのは多少なりとも悪い評価が付くものなんだ。遊び半分でやる奴も居る。でもこれにはそういうのが無い」

「う、うーん……あんまり有名じゃなかったらあり得るんじゃないかな?」

「……ホームページも持っててSNSでも確実に数十件は検索に引っ掛かる。これは有名じゃないって言えるのか?」

「ど、どうかな?」

「一応この件は覚えておいた方がいいかもしれねェ」


 それを聞くと翠は資料を取りに行き、そこに入れてあった白紙の紙を引っ張り出すとそこに記録を取り始めた。もちろん翠が言う様に偶然悪評が無いだけの可能性もある。しかし人の悪意が出やすいネット社会でそういった誹謗中傷が一切無いのはどうにも引っ掛かった。

 少しの間調べていると黒電話が鳴り始めた。自分で出ようとすると翠が先に立って電話へと出てくれた。しばらくの間話していたが、やがて話を終えて居間へと戻ってきた。


「何て?」

「それが……やっぱりみやちゃんが言ってた通りかも。多田さんって男の人は居ないって……」

「やっぱりそうか。少なくともアイツが人間じゃないのは確定したな」

「うん。それとね」

「まだあんのか?」

「えっと……多田真白っていう女の人も存在しないって……」

「何……?」

「あのね、みやちゃんが見てたページは他の人も見れたらしいの。でも現地に行ってみたら何もやってない空きビルだったって……」


 そういう事か……あのサイトもSNSでの情報も全部改竄されたものだったって事か。悪評が無いのも当然だな、全部自演だったんならそうなるだろうさ。ただ問題はあの多田という男と女が何者かって部分だ。どっちも実在しないとなると、お互いの目的は何だ?


「……翠、スマホ取ってきてくれ」

「えっ」

「アイツに話聞く」


 翠は急いで台所へ向かうとすぐにスマホを取って戻ってきた。既に電源は点いており、多田を自称する存在は画面内に映っていた。スマホを机に置いた翠は気取られない様にこっそりと見えない場所で先程の陣を展開させていた。


『何か分かりましたか?』

「それより聞きたい事がある。テメェ何者だ?」

『えっ? ですから僕は多田ですって』

「テメェは多田じゃねェよ。それにな、さっき調べたが話に聞いた病院はどこにも無いみてェだな」

『えっ? でもさっき性別が変わってたって……』

「オイいい加減しらばっくれンのやめろよ、あんまし気は長い方じゃねェンだからな」


 吹き出しには何も表示されなかった。多田の表情には何の感情も感じられず、ただ真っ直ぐにこちらを見つめていた。一瞬画面にノイズが走り視界が揺らいだが、直後翠のスマホが火花を散らした。画面内には多田の姿が元通り映っており、何が起きたのか分からないといった様子だった。翠の『威借りの陣』で力を弱めていなければ、恐らく入れ替わっていたかもしれない。


「悪いな。テメェみたいなのは対策済みだ」

『ぼ、僕を消すのか?』

「そうだな。でもその前にテメェは誰だ? それにあの女の方は誰だ? 言っとくが抵抗しても無駄だからな」

『……みたいだな。いいよ、分かった。どうせ望みが叶えられないなら消えた方がマシだ』

「そうかい。それで?」

『僕がいつ生まれたのかは分からない。気が付いたらこの電子世界に居た。誰かが作ったのかもしれないけど、正直分からないんだ』


 現代になって生まれた新参の怪異か。自我を持って生まれたはいいが、自分が何者なのか分からなかった感じだな。


「何であの女と入れ替わろうとした」

『入れ替わる? 違う、僕にそんな力は無い。相手の中に入る事は出来るけどね』

「……一つの体に二つの魂がある状態になるって事か?」

『そんな感じかな。それで、色んな所を行き来している時に彼女の事を知った。一目惚れだった。彼女の事しか考えられなかった。だからせめて彼女の側に居たいと思って』

「なるほど……単純に恋心か」

『くだらないと笑ってくれ。僕みたいな新参怪異が恋だなんてね』

「別に笑いはしねェよ。ただお前ェの力は厄介だ、封印はさせてもらうぞ」

『いいやそんな配慮いらないよ。もう生きてる意味が無い。彼女は見つからなかったと言ったろ? 理由は分からないけど、だったらもうどうでもいい』


 スマホから更に火花が散り始める。狙ってやったのかは不明だったがその火花が折り紙に接触して発火した。小さな火ではあったが、机が木製である事やこの家自体が木造建築である事から放置するのは危険だった。

 すぐに机に触れて熱源を発生させるとそれを折り紙へと移動させて加熱を行った。それも炎よりも遥かに高い温度での加熱であり、折り紙は一瞬にして燃え尽きた。あまりの高温だったためか炭すらも残らなかったが、一瞬の出来事であったためか火が広がる事は無かった。

 しかしそれが狙いだったのかスマホは一際多きな火花を散らすと完全に機能を停止した。画面は真っ黒になっており、本体の一部が熱によって溶けかかっていた。


「……マジかよ」

「じ、自殺しちゃったって事……?」

「だろうな。でも問題はまだ終わってねェぞ」

「えっ?」

「もう一人の多田だ。あの女は誰なんだ? 少なくともネットは使える存在って事だよな?」

「あ、確かに……今の人も存在しないって事を知らないみたいだったね」

「そこが気になる。アイツがもう一人を知ったのはホームページの写真だった可能性が高い。でももしそうじゃなかったとしたら? きちんと実在している様子を認識出来ていたとしたら?」


 姉さん達の調査に間違いがあったとは思えない。恐らく女の多田は実在しないのだろう。しかしそうだとしたら彼女は何者だ? さっきのアイツと同じ様に情報生命体の一種なのか、それともネットを使えるまた別の存在なのか。はっきりと形が存在しているものなら、一族の気配を察知して逃げた事になる。もしそうだった場合、そいつは日奉一族の事を知っている古参怪異という事になる。


「すいませ~ん誰か~?」


 色々と考えていると玄関から聞き覚えのある声が聞こえてきた。少し前に管理場所を移動したと聞いていた百さんの声だった。何故ここに来たのかは分からなかったが、出ない訳にもいかないので壁を支えにしながら玄関へと向かった。玄関には美海が立っており、扉の向こうを向いて威嚇をしていた。


「翠、待ってろ……」


 美海の様子に違和感を抱いたアタシは玄関からは出ずに縁側の引き戸を開き、そこから外へと出た。玄関先には間違いなく百さんが立っており、こちらに気付くとこちらへと歩いてきた。


「百さん、何してるンすか?」

「いや~ちょっと頼まれ事されてね~」

「頼まれ事ってのは?」

「うん、その事話すためにちょっと入れてくんない~?」


 表情や言動に特に違和感は無かった。しかし一つだけ、どうしても看過する事が出来ない部分があった。それは鼻につく異臭だった。まるで何かの死体を腐らせたかの様な悪臭であり、以前会った時にはこんな匂いはしていなかった。それにこれだけの悪臭がしていれば本人も気付かない筈がないというのに、まるでそれが当たり前であるかの様に目の前の彼女は振舞っていた。


「止まってください」

「えっ? 何? どしたのぉ?」

「……ここで話してもらえます?」

「いやいやそれが出来ないのよ。だから悪いんだけどさぁ~」

「出来ない理由は何です?」

「うん、それも話すからさぁ~」


 こちらの質問にまるで答えようとせずにはぐらかし続ける反応しかしなかったため、杖から地面に熱源を伸ばし、目の前の存在の頭部へと移動させて加熱を行った。人間相手には余程の事が無い限りやらないというのが信念だったが、アレが人では無いのは確かだった。

 それは百さんの声によく似た悲鳴を上げながら顔を抑えていたが、やがて頭部がドロドロに溶け始めた。どう考えても生物を溶かせるだけの熱量では無く、明らかに不自然な溶け方だった。


「化けるならもうちょっと上手くやれよなオイ」

「み、みやちゃん!? 今の声って!」

「いいぜ出て来いよ翠。やっと見えてきたぜ……こいつが多田って女の正体だ」


 その肉体はドロドロと溶け始めてどんどん縮んでいった。先程よりも明らかに小柄になり、横幅が増加していた。その姿はやがて肉塊の様な形へと変化し、まるで芋の様な胴体に短い手足が付いており、その姿は資料にも載っているものと同じだった。

 翠が縁側から顔を出す。


「み、みやちゃん! これって……!」

「ああ、間違いないだろうな。こいつがあの女の正体だろうよ。資料には狐狸の類じゃないかって書いてあったしな。化けるのもお得意だろうぜ」

「じゃ、じゃああの人は……これに恋してたの……?」

「誰を好きになるかは個人の自由だが、多分こいつは分かっててやったンだろうぜ。最初から他の怪異をたぶらかすのが目的だったンだろうよ」


 目の前の肉塊はやがて叫び終わると胴に付いているその顔をこちらに向けた。垂れた肉で眼球は確認出来ず、鼻や口といったものもあくまで肉の垂れ方でそう見えているだけといった形だった。


「なァそうなんだろ?『ぬっぺふほふ』さんよォ」


 『ぬっぺふほふ』はくぐもった様な不気味な声を上げると突如敷地から出ようと鳥居の方へと向かった。翠は結界の用意をするために慌てて居間の方へと向かった。しかし、それよりも熱源の移動の方が速いと感じて『ぬっぺふほふ』に熱源を複数向かわせた。その見た目からは想像も出来ない程素早い動きで敷地外へと逃げていったが、幸いにも熱源は問題無く取り付ける事が出来たため追跡する事は可能だった。


「翠、結界は今はいい。それより姉さんに連絡しろ」

「に、逃げられた?」

「熱源が付いてるから追跡は出来る。それよりアイツが出た事を伝えてくれ」

「わ、分かった!」


 翠がドタドタと廊下を走る音が聞こえる。

 『ぬっぺふほふ』、資料に名前が載っていた。1609年の駿府城すんぷじょうで徳川家康が目撃したのが最初の発見例だとされている。しかしその時はすぐに追い出され、これといって抵抗はしなかったらしい。その後も複数の目撃事例や確保作戦が一族によって記録されているが、いずれも細かい部分は分かっておらず『ぬっぺふほふ』が何を目的にしている妖怪なのかは一切判明していなかった。しかし今になってアレは狐狸の類が持つ特徴である変身能力とネットを使い、一部の怪異を誑かそうとしている。

 何か嫌な予感がする。今になって急に行動を始めたのが不可解だ。今までは特にこれといった特殊な行動はしていなかったってのに、ここに来て急に特殊な動きをし始めた。何かある……今この時代に行動を始めた事に何か理由がある筈だ。


「み、みやちゃん! あか姉達も捜索を始めるって!」

「……そうか。アタシらも行こう。妙な感じがする」


 縁側から家へと上がる。


「みょ、妙な感じって?」

「『ぬっぺふほふ』は目的を持たない妖怪として記録されてる。だが多田はアイツに誑かされた可能性がある。もしこの仮説が当たってるとしたら、『ぬっぺふほふ』は何か企んでる筈だ」

「た、確かに資料に書いてあるのは見た事あるけど、無害な妖怪じゃなかったの……?」

「時代は変わる。『口裂け女』もこの時代に適応した。妖怪だって変わるだろうよ」


 翠と共に準備を済ませるとメリーさん人形をリュックへ入れ、美海も連れて家から町へと出る事にした。『ぬっぺふほふ』が他人に化けられる以上、家族であるこのメンバーを一人にさせる訳にはいかなかったからである。


「みやちゃん、場所分かる?」

「大丈夫だ、追跡出来る」


 目を閉じて意識を集中させ、『ぬっぺふほふ』の熱源から発生している波を頼りにゆっくりと歩き出した。

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