覚醒夢遊病
景色が、砂浜では無くなっていた。鉄臭いような匂いが鼻をつく。気が付くと、ここは路地の向こうの空き地みたいだ。目の前には男と犬が倒れ込んでいる。犬は前足を切り取られて、顔を潰されている。びっくりして後退りすると、がらんごろんと鉄パイプが転がった。わたしが持っていたのかと両手を見ると、わたしの手には夥しい量の血が着いている。パイプは男の顔面に突き刺さっていて、血が吹き出している。
またハッと気が付くと、犬も、男も消えていた。あの顔は、夢に見たあのアレだった。わたし、わたしはやってない...なにもしてない...わたしは...。どういうことなのだろう。消えたあの男と犬、消えたから初めから居なかったのか、居たけど消えたのか。確かに殺した感触が、生き物が死ぬ寸前の痙攣の振動と、噴き出す血液の気持ち悪さと、生温かさ、におい、全て経験のあるものに思えた。
頭が混乱して頭痛がした。そうだ、以前悩みを相談した友達に話そう。誰かに話せば、悩みも少しは軽くなるかもしれない。これは夢なんだから。わたしは疲れているだけなんだ。きっとそうだ。心細くて誰かに会いたいような気持ちも強かった。まともな人、普通の人と1秒でも早く話したい。それが夢でも現実でも良い。わたしの精神は限界だった。
ふらふらと歩いて、中の良かった友人の家に向かった。不思議なことに、いや、それともまだ夢の中を彷徨っているのか、通行人とは1人もすれ違わなかった。真っ暗な住宅街の中、友人の住むアパートの部屋だけが明かりが灯っていた。なんとなく、安堵感があった。呼び鈴を鳴らすと、返事があって、扉が開いた。友人の顔にはあの空洞にが空いていた。わたしは言葉を失って、友人が何かを話していたと思うのだけど、全てがぎゅるっ、ごりっという音に掻き消されて、ついにわたしはおかしくなったんだと悟って家に帰った。
家に帰ると、床中にあの犬の死体が散らばっていた。もう今が夢なのか、現実なのか、区別がつかなかった。部屋の真ん中に男が立っていて、笑っていた。聞き覚えのある笑い声だった。ぎゅるっぎりっごりゅっという音の中に笑い声が混ざっている。また殺されたいんだこの男は。わたしはいつのまにか、またあのパイプを握っていて、それでまたあの男をあの時と同じように黙らせた。
身体中が血塗れになって、気持ち悪かったのでシャワーを浴びる。鏡の中のわたしの顔に空洞が空いていていたってもう気にならなかった。耳にずっとあの音が残っている。シャワーの水もずっと赤いままだ。ベタついた血糊はそうそう簡単に落ちない。あの時もそうだった。...あのとき?シャワーの水音が大きくなっていき、やがて耳鳴りと頭痛がやってきた。
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