雪の日には瞳を閉じて
@KENSEI
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未明から降り始めた雪のために、搭乗する予定だった便が遅延になった。
ぼくはそのままロビーで出発を待つことにした。
早朝だというのに、ロビーにはかなりの人の行来がある。
立ち上がって脱いでいたコートに袖を通し、トランクを股の間に入れた。
浅く椅子に座り直し、踵と膝でトランクを挟む。
腕を組んで目を閉じた。
ほとんど寝ずに空港まで移動してきたせいか、眼球とまぶたの隙間が熱を持っているように感じられる。
今日がバレンタイン・デーあることは、意識的に思い出さないようにしていた。
しかし、あの日と同じように雪が降っているのを知ってしまっては、その努力も無駄だった。
あの朝も雪が各地の交通機関を混乱させていた。
“もし”を想像し続けるのは、未だに高慢である証拠なのかもしれない。
自分の過去の所業を受け入れきれないただの甘えなのかもしれない。
しかし、もし、すべてを投げ打ってでも時間を遡ることができるなら、ぼくはあの朝に戻りたい。
ぼくは結局、美恵から一度もチョコレートを受け取ることができなかった。
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