アインの伝説(30)



「君には感謝しているのだよ」


 ええと、後でって呼び出されて、学園の授業が終わって、どうせおれはダンジョンアタックはしないからってリアさんが『賢者』さまのところへと急かすモンだから、その控室へやってきて、待ってた『賢者』ギメス師がどうぞ、と言ったから座って、神官がお茶を淹れてくれて、『賢者』ギメス師が神官に人払いを頼んで、控室で二人きりになって……。


 今、ココ。


 この人、けっこーな重要人物のはずなんだよな。


 いまや、量産型のように増えてしまった『聖女』と違って、孤高の『賢者』。たった一人の、ぼっちジョブ。この世界に一人だけのジョブ。世界に一つだけの職、一人ひとり違う種は持つのか?


 いやいやとにかく重要人物。それが護衛もなく、いくら学園の学生とはいえ、よく知らないだろう人物と密室で二人きりとか、せめて護衛を付けるぐらいはした方がいいのでは? なんて余計な心配をしてしまう。


 『賢者』アルデギメス・ド・ウィンフィッテ伯爵、48歳、レベル21か。


 レベ5の護衛なんてHP50だろうから、賢者ギメスの攻撃魔法の中級スキルで瞬殺できるんだろうな。賢者の補正があれば楽勝か。トリコロニアナの最強騎士だった人より何気にレベルは上だし。


 どっかモンスター異常んトコにでも行ったことがないとこのレベルはねぇよな。


 あ、今なら、割と近くになるかもしんねぇのか……。


 そういや、魔法職に会うのって、はじまりの村以来かな? 考えてみたら魔法職も珍しいよな。各国が抱えて外に出さないらしいし。


「不思議そうな顔をしているね」

「……ええ。声をかけて下さった理由が思い当たらないので」


「ああ、そうだったのか。てっきり、わかっていると思っていたよ。実は、君のことは弟子から手紙をもらって、それで聖都へ行かなければならないのなら、ついでに学園を覗けないかと思っていろいろと手を回して、臨時講師なんかしてみちゃったりしてね……」


 そんで、しゃべり始めるとマシンガンなのかよ? こんなキャラだったっけ? 『賢者』ギメスって、もっとしっかりした大人ってイメージなんだけどな?


「弟子って、誰ですか」


 おれはしゃべり続けそうなギメス師に割り込むように問い掛ける。


「……あれ、本当に聞いてないのかい? 弟子は君のおかげでとても助かったと、そう手紙に書いていたのだがね?」

「あ、いえ、だから、弟子って誰です?」


「大きな声で言うと問題があるから、名前は出したくないのだがね。そうか、弟子で伝わらないとなると、どうしたものか……」

「小さな声で言えばいいのでは?」


「いや、小さくしても、どこかでとても耳のいい者が聞いているかもしれないからね……」


 超能力者でもいるんかいっ!? いや、魔法とかある世界だけどな! だけども!


「本当に、弟子で、わからないかい?」

「本当に弟子って誰なんです?」


「うーん。ええと、そうだ、私の弟子はね、なかなかかわいい子だったよ」

「か、かわいい子、ですか……」


 なんだこのシルエットクイズのヒントみたいな状態は? しかもヒントとして機能してねぇ? かわいい子ってどんなヒントだよ!?


「私の弟子だからね、もちろん魔法が使える」

「それは、そうでしょうね」


 おれの知り合いで、ギメス師から見てなかなかかわいい子で、魔法が使えて、賢者の弟子を名乗る……賢じゃ……? いやいや? 色々と当たり前すぎてヒントになってねぇし?


「昔々、あるところでいじめられていたのを助けたんだがね」

「はあ……」


 浦島太郎? うらちゃん? うらちゃんなのか? あ、いや、助けられたのはカメの方か?


「もうわかっただろう?」

「いいえ。さっぱりです」


「ふふ、いいね。わからないフリするというのは大切だね」

「いえ、本当にわからないんですけど!?」


 なんだろうこの人? 本当にあの賢者ギメスか? 話が通じねえっ!?


「まあまあ、それはもう大丈夫だよ、レーゲンファイファー子爵」

「いえ、全然、これっぽっちも、大丈夫ではないです、はい」


「私から言えることは」

「あの、聞いてます?」


「私は、君を全面的に支える、そういうことだよ」

「それ……」


 賢者ギメスがレオンに言うセリフじゃん!? なんでおれに向かって言ってんの? それをレオンに言って、パーティーに入ってくれと言われて、レオンの旅についていくって、そういうセリフだろ、そいつは!?


「あの、そういうことは、私ではなく、『勇者』に言った方がいいのでは?」

「うん? ああ、『勇者』か」


「そうそう、『勇者』です、『勇者』」

「『勇者』の彼は、私の弟子の息子なのだよ。正確には甥なんだがね。弟子が彼を引き取って育てたのさ」

「は……」


 弟子って……。


 アンネさんのことかーーーーーーーっっっっ!!!


 ……いやいやいやいや、思わず死んだ兄弟弟子の親友をディスられて最強の存在に変身する寸前の怒りテンションで叫びそうになっちまったじゃねぇーか。オラ、髪の毛逆立ってスーパーアインになっちまうぞ。


「弟子って、そうですか。ようやくわかりました、誰のことか」

「いや、わからないフリを続けてくれたまえ」


 いや、わかんねぇよ、なんで続けるの、そのフリを?


「だが、君が望むのなら、私はどのような援助も惜しまないよ、レーゲンファイファー子爵」


 この人、人の話を全然聞かないのな、マジで。


 まあでも、せっかくこう言ってくれてるんだから、それはそれとして……。


「では、お願いしたいことがございます。『賢者』ギメス師。いえ、ソルレラ神聖国大神殿におけるこの度の神聖会議でのエイルラード国代表者、ギメスさまに……」

「……ふうん? おもしろそうだね?」


 イケオジがいたずらっ子みたいに笑うとか、早く大人になりなさい、と言いたい。


 でも、このイケオジ、影響力はかなりある。


 これを利用しない手はない、と思う。


「ぜひとも、大陸同盟の廃案にご協力を……」


 おれはそう言って、まっすぐに賢者ギメスの目を見つめたのだった。





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