アインの伝説(13)
とりあえず、闇の女神系回復魔法スキルは、おれの中では原則として禁呪指定となったことは報告しておく。
魔法スキルのエフェクトのビジュアルが悪っぽくなるってのもあるんだけど、あるんだけども。
太陽神ダンジョンの2層ボス、大蛇タイプモンスターのピカコンダ、HP6000と戦う時に、初級スキル・ララサ、中級スキル・ララシの熟練度が上がって使えるようになった上級スキルのララスを使ってみたところ、学園編突入で1本あたり1000HPとなったボス用HPバーがいきなり1本消し飛んだのだ。
つまり、上級スキル・ララスでのエナジードレインで1000ダメージ以上は与えられたということ。闇が弱点属性だったとしても、通常で500ダメージはあるってことになる。
そこからステ値を確認しながら検証しつつピカコンダを倒したんだけど、ララサ、ララシ、ララスのエナジードレインは術者の魔力による計算だと考えられると判断。
たぶん、ララサが魔力の10%、ララシが魔力の20%、ララスが魔力の30%のエナジードレインだろうな、と。
あと、ピカコンダは闇が弱点属性で間違いなさそうだった。
そして、敵モンスターにエナジードレインで与えたHPダメージ分、自身のHPを回復させることができる、と。確かに回復魔法なんだけどさ。
こんな魔法を人間に使ったとしたら?
強くてもレベル5、かなり強くてレベル10、最強でレベル17という程度の人間を相手に? HP170ぽっちしかないのに?
初級魔法スキルのララサが「即死魔法」になっちゃうからな!? おれのステ値の魔力が補正も含めて高すぎてさ!?
しかも『神々の寵児』って回復魔法効果×1.5だから! どう考えても攻撃魔法なのに回復魔法効果×1.5が計算上に加わるってどうなんだよ!?
実際、太陽神ダンジョンでララサとかララシを使っていけば2層までのモブモンスターはほぼほぼ即死だったしな。2層ボスも上級スキル1発でHPの6分の1が吹っ飛ぶんだぞ?
パーメンに使って自己回復するって? ソレ、仲間殺しになっちゃいますから! 残念!
もうこれは禁呪指定ですから!?
使用禁止! ダメ絶対!
危険すぎるーーーーーーっっっ!!
……だがしかし。
だからこそ、姉ちゃんがいない夏の今、闇の女神系魔法スキルの熟練度を上げるチャンス。
誰にも知られずにこの魔法スキルを使いこなせるようになっておいて損はない。
でも、バトルの実感がねぇんだよ、コレ。
特に太陽神ダンジョンだと予想通り闇が弱点属性のモンスターだらけだからさ、もう即死魔法なワケだよ。威力があり過ぎる。おれのステ値が高いからだけどな? 昔っからなんでか魔力は特に高かったしな?
その代わり、おそらく色んな意味で使い道は多い魔法スキルだと思う。
特に隠密系潜入ミッションとか、たぶんめっちゃ使える。ララバイで眠らせる、ララカットで暗闇を与えて視界を奪う、などなど。
侵入でも脱出でも活躍すんだろ、コレは!
しかもララスなんて暗殺に最適だろ、近距離なら。ほぼ即死魔法なんだし。
夜の暗闇にまぎれて、ララバイで見張りを眠らせて侵入し、ターゲットをララスで暗殺、そのまま脱出とか、どうやって殺したのかもわかんねぇ、みたいな感じで超ヤベーーー……。
ヤバい。この魔法スキルはマジでヤバい。語彙をことごとく奪われるぐらいにヤバい。
この世界の神様はいったいおれをどこへ導こうとしてんだろうな?
……あ、古代神殿に導いてんだっけ、そういや。
太陽神ダンジョン3層で色々な闇の女神系魔法スキルを使い、ひたすらモンスターを殲滅しつつ、色々と考察してみた。
ちょっと自分自身が怖くなったけどな。
ケーニヒストルータの姉ちゃんとの文通も、もう10回以上になってしまった黄の半月の半ば。一番長い休日は夏祭りのことも含めてフェルエラ村へと帰った。
今日はイゼンさんと書類の確認、明日は祭りの準備で、明後日は夏祭りだ。
シェフのゾーラさんが肉くれ肉くれとうるさいから上肉を厨房に積み上げておいた。特上肉? あれは簡単には譲れねぇな。夏祭りでは上肉を使ったゾーラさんの肉料理が無料で振る舞われる予定。
今年は姉ちゃんがケーニヒストルータから戻ってこないつもりなので、リンネと一緒に領主館の方で過ごしている。リンネも料理はできなくはないんだけど、やっぱ姉ちゃんほどは、な。
そんで、聖都に一人残されるかもとほぼ泣き顔になってたリアさんはフェルエラ村に連れてきた。セリアがまた「お嬢さま、お手柄です」とか言ってたけど、あの優秀なメイド、なんか最近変になってきてねぇか?
オルドガがレベル35を超えてリタフルが使えるようになったから、聖都とフェルエラ村の移動については姉ちゃんがいなくても心配ない。
戦闘メイド部隊の子たちも、自分たちの家、自分たちの部屋という感じで、フェルエラ村に戻ると本当にリラックスした表情になる。
そういうのを見ると、こっちもほんわかできる。
午前と午後で交代して休暇をとり、きゃあきゃあ言いながらクレープだかパンケーキだかピザだかを食べに出かけていくのも、フェルエラ村ならではの光景だろう。
平和だ。
うん。
平和だな、うん。
それに気づいたのはイゼンさんから手渡された村の収益に関する計算書を見た時だった。
「……? 肉の金額がずいぶん増えてますね?」
「はい、実は……」
イゼンさんによると、これまでツノうさ1羽だった狩場が2羽、2羽だった狩場が3羽になったり、今までは見たこともなかった大きな鳥の魔物が突然襲ってきたり、リポップ待ちで獲物がいないはずの狩場にビッグボアがリポップしていたりと、魔物の配置やリポップに変化が見られるようになって、想定以上に魔物を狩っているとのこと。
「……ダンジョンの方は何か変化が?」
「オルドガによると、ダンジョンではそのようなことはないようですが、里山では巨大蛾のリポップが早くなっていると報告がありました」
「ボスのリポップが早く……?」
……元々、フェルエラ村周辺はモンスター異常地帯だ。それがこの村で暮らす人々を苦しめてきた。
大盾と槍を使った戦い方を身に付けて、日々モンスターを狩り続けてレベルアップしたことで今のフェルエラ村の安定があるんだけど。
ここにきてのさらなる狩場の異変。
リポップタイミングの短縮と、モンスター数の増加、新しいランダムエンカウンターの発生。
レベルが高くなってるから対応できてるみたいだけど、これは……。
「イゼンさん、すぐにハラグロ商会と連絡をとってください。北方の情報を集めてもらわないと」
「はい。すぐに」
おれの声色の真剣さに反応し、イゼンさんがすばやく執務室を後にした。
……ウチとしてはモンスターバブル。さらなる利益につながる状況だ。そうなんだけどな。そうなんだけども。
タッカルさんたちも夏祭りを楽しみにしてるとは思うんだけど、ちょっと今回は……。
肉増量。あ、いや、牛丼屋の広告かよ。そうじゃなくて。
魔物の活性化、またはその兆し。
三日後。
夏祭りの次の日に届いたタッカルさんの報告で、はじまりの村が魔族と魔物の襲撃でなくなったということがわかった。
魔王軍の侵攻がついに始まったのだ。
平和は、今、終わりを告げようとしていた。
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