光魔法の伝説(13)
古き神々の神殿での4日目。
医薬神ダンジョンの1層を新幹線並みにぶっとばして突破。残念ながら、隠密系のビッグセブンスからはどうしてもダメージをもらうが、こいつに特殊効果はないのが救い。
2層もまっすぐボスのところへ走る。
2層ボスは人食い魔木、HP6000だ。
既にボスエリアに侵入して、人食い魔木は動き始めている。ゴーレムよりはちょっと速いけど、基本的に動きは遅いモンスターである。
「姉ちゃん、お願い」
「うん、まかせて……『われつきのめがみにこいねがう、とぅきにみてぃたまりょくを、バイマナイス』……あれ?」
残念。呪文の詠唱をミスってますね。とぅき、じゃないよ、つき、だよ。みてぃた、じゃないよ、みちた、だよ、姉ちゃん。というワケで、バイマナイスは発動せず。
『ヒエンギ』
『ヒエンガ』
『ヒエンアイラセ』
おれはとりあえず火の神系魔法を連続で人食い魔木に喰らわせていく。
炎に包まれて、人食い魔木のHPバーが削れていく。
詠唱に失敗した姉ちゃんは首をかしげつつ悔しそうな顔をしながら、ウォーランスを振り回して人食い魔木に近づいていく。
おれが魔法でタゲ取りしてるので、人食い魔木の枝がおれを狙っているんだけど、まだ距離が届かない。おれも姉ちゃんから少し遅れて、動き出す。
姉ちゃんは攻撃範囲に到達。槍ツインをざくざくっ、ずばんっとぶちかます。
人食い魔木がノックバックして、戻ってくる。その何本もの枝は、おれから姉ちゃんへと狙いを移していた。槍ツインのダメージで、おれから姉ちゃんにターゲットが変化している。
でも、姉ちゃんを攻撃する前に、おれがミスリルソードでツインをぶちかます。ペア戦闘の基本となるクールタイムスイッチだ。その間に姉ちゃんは技後硬直が解けて、予備動作を進めている。
おれのツインでノックバックした人食い魔木が、またターゲットをおれに戻して、枝を伸ばそうとする。
その攻撃が届く前に、姉ちゃんの二度目の槍ツインがざくざくっ、ずばんっと炸裂して、人食い魔木が光の粒となって、飛び散っていく。
薬草が何本かドロップしたのでストレージに回収。リョフツヨソウだった。なんか、懐かしい。
でも、ボスドロップとしては残念な感じ。火の神系魔法を使ったからかもしれない。期待していた石版のドロップはなし。
「……びっくりしたわ。こんなにあっさりたおせるなんて」
確かに、ボスの多めのHPでも、特に問題なく狩れた。自信を持ってもいいとは思う。
「姉ちゃんも、ゴーレムとかパペットとか相手に頑張ってきたからな。槍の熟練度もけっこー上がってると思うし、こんなもんだろ」
たぶん、姉ちゃんはレベルがそろそろ20に届くはずだ。ちょっときついけど、3層も少しずつ慣らしていった方がいいかもしれない。
2層のボスを狩って、その場にある新たな渦に飛び込む。
転移したのは3層だ。もちろん森林ダンジョンであることは変化しない。
適正レベル25なので、姉ちゃんにはちょっと厳しいくらいの感じとは思うけど、とりあえずチャレンジしてみる。
ほぼ移動もせず、いきなりエンカウントした。
トレント。HP2000クラスのモンスターだ。もちろん弱点属性は火。人食い魔木もそうだが、攻撃力は低めで、枝による3回攻撃をしてくる。
防御姿勢が取れれば特に問題なしのもーまんたいだが、取れないと3回分のダメージが入る。そうはいっても、攻撃力の大きいモンスターと比べればマシ。
ただし、いきなり3体だったけどな。
攻略難度が高くなりすぎじゃね?
まあ、適正レベル15の2層から適正レベル25の3層だから、難しくなるのは当たり前だけどな。
さて、どう戦うか……。
「おれが範囲魔法と2にふたつの単体魔法をぶつけて、3にツインで突っ込むから、おれが技後硬直でダメージ受けてる間に姉ちゃんは回り込んで、ツインを使って。角度調節して、スラッシュは1と2の両方に、カッターは1で。できる?」
槍ツインならではのスラッシュ部分の2体同時攻撃。剣スラだと単体だからな。
「できるわ。でも……」
「ダメージなしで戦うってすごい難しいんだよ、姉ちゃん。3体全部、魔法で最初にタゲ取りするけど、タイミング次第でおれが喰らうダメージを姉ちゃんが喰らうかもしれないからな? リーダーの指示に従う。いい?」
「……わかったわ」
ちょっとふてくされ気味だけど姉ちゃんは一応うなずいた。
自分がダメージ喰らうのはいいけど、おれが喰らうのは嫌なんだよな。おれもそうだけどさ。
今のおれと姉ちゃんで、このクラスのモンスター3体はダメージ前提で戦わないと、逆にどこかでミスをして大きなダメージを喰らいかねない。ダメージマネジメント……ダメマネ大事。受けざるを得ないダメージは受けて、後で回復。
この作戦なら、おれが多くても2発で、姉ちゃんも2発もらうぐらいで済む。それくらいならライポでおしまいだから。
『ヒエンアイラセ』
おれは範囲魔法でトレント3体を焼きつつ、右へと回り込んでいく。
『ヒエンギ』
『ヒエンガ』
単体型はトレント2に集中攻撃。同時にミスリルソードはスラッシュの予備動作を完了。
3体ともタゲ取りできたのでおれを狙って動く。
姉ちゃんが左へと回り込むように動き出す。うまく森の木を活かして後ろへ行けそうだ。
おれはトレント1とトレント2からできるだけ離れて、トレント3にツインをぶち込む。スラッシュの後のカッターでノックバックが入ったまま、トレント3が薬草に変わる。
でも、そこでおれは技後硬直だ。
トレント2が近づく。この一撃は覚悟の上。トレント1はおれの技後硬直には間に合わないから、気にしない。
ところが、姉ちゃんが一歩速く、おれが攻撃される前にスラッシュを2体同時にザザザンッ、ザザザンッと発動させ、そのまま頭上に振り上げた槍をトレント1にズダンッと叩き落す。
……姉ちゃん! ちょっと速いって! なんで言うこと聞かねぇーんだ!
トレント1はノックバックして、姉ちゃんは技後硬直。
おれの火の神系魔法2発分より、姉ちゃんのスラッシュの方が、与えたダメージが大きかったんだろう。トレント2が姉ちゃんを振り返って、技後硬直中に枝で3回攻撃をかます。
「姉ちゃん! くそぅっ!」
技後硬直が解けたおれはトレント2にツインを振るうが、スラッシュの段階で技を連続させる前にトレント2が消える。
技後硬直が解けた姉ちゃんが防御姿勢を取らずに予備動作に入った瞬間、ノックバックから戻ったトレント1が姉ちゃんを枝で3回攻撃! 姉ちゃんの予備動作が妨害された。
おれはスラッシュの技後硬直でまだ動けない。
……ああ、もうっ! カッターにしとけば1秒早く動けたのにっ!
姉ちゃんが後退して予備動作をしようと動くが、トレント1が追いかけてくるのでうまくできない。
『ザルツリ』
『ザルツラ』
『ドウマラ』
『リソトラ』
技後硬直が解けたおれは、ありったけの単体型魔法を次々と繰り出しつつ接近するが、トレント1のタゲ取りができない。
弱点属性ではない魔法じゃ、ダメージが稼げないからだ。
弱点属性の火だったとしても、タゲ取りができたかどうかは怪しい。
魔法攻撃力2倍とかになる『賢者』とか、1.5倍になる『魔法剣士』とかなら、違うんだろうけど、まだジョブがつく洗礼を受ける年齢になってない。
『ソルマ』
『ソルミ』
貫通して姉ちゃんを巻き込まないように角度を調整しつつ、太陽神系貫通型魔法も使うが、トレント1のタゲ取りもできないし、倒せもしない。フレンドリーファイアが怖くて狙いが面倒で不便だし、せめてこういう時に即死効果がほしい! カンチョーとかじゃなくて今こいよ!
姉ちゃんが予備動作をあきらめて防御姿勢を取り、トレント1の3回攻撃を受ける。これで姉ちゃんは3×3の9回攻撃を受けてる。
そこでようやく、おれのカッターが届き、トレント1が消えていく。
トレントが消えた向こうに見えたのは、青い顔をして歯を食いしばる姉ちゃんだった。
おれと違って、姉ちゃんはステ値が見えない。だから、どこまでがぎりぎりなのかはわかんねぇんだけどな。でも、最後の防御姿勢がなかったら、危険だったかもしれない。本当に死んでいたかもしれない。わかんねぇけどな。わかんねぇけども!
少なくとも、おれがトレント2の攻撃を受けてから姉ちゃんがツイン入ってたら、技後硬直が解けたおれがトレント2を倒して、姉ちゃんがトレント2から受けた分のダメージは減らせたはずだ。
死ななきゃ、回復はできる。死ななければ回復はできるんだから。おれがダメージを受けないように行動した結果、姉ちゃんが死んだら意味がねぇんだから!
「……姉ちゃん。おれは、姉ちゃんを守りたいし、死んでほしくないし、姉ちゃんが大好きだし、でも、こんなにおれの言うこと聞いてくんねぇんじゃ、おれ、もう、どうしたらいいか、わかんねぇよ」
それは悔しさなのか、悲しさなのか。
それとも他の何か、なのか。
そう言いながら、おれは泣いていた。
おれは歯を食いしばって、でも、泣いていた。どれだけ歯を食いしばっても流れ出る涙を止めることはできなかった。
「……ご、ごめんなさい。ごめんなさい、アイン。ごめんなさい……」
姉ちゃんが謝ってる。おれを抱きしめて謝ってる。
謝ってるけど、謝ってほしいんじゃねぇんだ、姉ちゃん。
おれは姉ちゃんに、わかってほしいんだから。
わかってほしいだけなんだからな。
その日は、そのまま3層の渦を利用して、神殿へと戻る。
3層と4層は、神殿からの直通が可能だ。
ただし、1度、その層まで行かなければならない。1度3層まで行けば、3層から神殿へ戻るか、2層へ戻るかを選べるし、次から神殿の渦で、1層に入るか、3層に入るかを選べる。4層に1度行けば、その選択肢は4層も加わる。
たぶん、ボス戦のクリアがカギなんだと思う。
農業神のダンジョンにも行かずに、アトレーさまの神殿でおれは姉ちゃんと話す。
わかってもらえるように。
信じてもらえるように。
大事なことはダメージを受けないことではなく、死なないことだということ。
二人のどちらかがダメージを受けるのではなくて、受けるダメージをできるだけ分け合うこと。
その時、ぴったり半分ずつではなく、より強い方が多めにダメージを受ける方が望ましいこと。
そして、今は、姉ちゃんよりもおれの方が強いこと。
姉ちゃんも着実に強くなっていて、いずれはおれと変わらないくらい強くなれること。
そして、いつか、与えられた役割によって、どういう戦い方が必要になるかが決まること。
何よりも、おれは自分が死にたくないし、姉ちゃんに死んでほしくないこと。そして、姉ちゃんがおれを守ろうとしてくれるように、おれも姉ちゃんを守りたいんだということ。
姉ちゃんは黙って聞いてくれた。
わかってくれたかどうかは、まだわかんねぇけど。
とりあえず、おれの言いたいことは最後まで、黙って聞いてくれた。
とりあえずは、それしかない。
この先、どう変わっていくか、それを見ないとわからない。
また、同じことを話さなければならないのかもしれないし、もう同じ話は必要ないかもしれない。
でも、二人で生き抜いていきたい。
どちらかが生き延びればいいんじゃない。二人で生きていきたい。
その気持ちをわかってほしいと思う。
ただ、作戦を無視して行動することには実は苛立ちもあった。でもそのことだけは言わなかった。そこだけは、おれも我慢した。
5日目。
医薬神ダンジョンの3層へ飛び、そこから2層へ下りる。
そこにはリポップしたボス、人食い魔木がいた。
昨日の戦いで、たとえボスでもHP6000の取り巻きなしなら楽勝だと判明している。
姉ちゃんが槍の間合いからの人食い魔木にツインを喰らわせて先制し、タゲ取りもする。
人食い魔木がノックバックから戻ると同時に姉ちゃんを狙おうとするが、クールタイムスイッチでおれが飛び込み、ツインをぶちかます。その間に技後硬直が解けた姉ちゃんは予備動作を終える。
人食い魔木はおれをターゲットに変更する。ノックバックから戻ると、おれを狙って枝を動かそうとする。
でも、今度はそこにクールタイムスイッチで姉ちゃんが割り込み、再びツインをぶちかます。その間に技後硬直が解けたおれは予備動作を済ませる。
ノックバックから戻った人食い魔木は、まだおれがターゲットのままらしい。おれのツインは姉ちゃんのツイン2回分よりダメージがあるってことだ。おれを狙って枝を動かす人食い魔木。
でも、その攻撃よりも先に、クールタイムスイッチでおれのツインが……正確にはツインの最初のスラッシュで人食い魔木はボス消滅エフェクトとともに消えて、ドロップアイテムを残す。
2対1で戦うと、ペアならこれだけのことができる。テツコの物理防御とノックバック耐性、装備が銅のつるぎと鉄の槍ではできなかったことが、人食い魔木相手なら、ウォーランスとミスリルソードへの装備更新でここまでできる。
ドロップアイテムを確認して、おれはにんまりと笑い、姉ちゃんを見た。
「これで石版がそろったよ、姉ちゃん。マジポが作れるようになる」
医薬神ダンジョン2層、最後の石版が、予想通りボスからのドロップで手に入った。マジポ作成の呪文は『われ寛容なる医薬神に乞い願う、神々の奇跡の力を満たす魔力の素を、マナリスマナリオンス』だった。タッパのメモに書き込んで保存する。これでもう大丈夫だ。
マジポは明日の朝、MP最大で作れるだけ一気に作って、姉ちゃんから『聖者の指輪』を借りてMPを回復させながら探索すればいい。素材はたんまり貯め込んであるからな。
再び渦に飛び込んで1度3層へ行く。そのまま渦に飛び込み医薬神の神殿へ戻る。
朝イチでボス戦をあっさり終わらせたので、次は商業神の神殿へと向かう。2層を攻略してリタウニングの呪文を手に入れることも目標だが、今日はあるアイテムの入手も狙ってる。
商業神ダンジョンは都市ダンジョンだ。ただし、人は見当たらない。無人都市。無人だったら都市じゃねぇだろ、廃墟だろ、みたいな気もする。
でも、建物とかはとても綺麗なままだし、建物に入ればタンスやら何やらをあさって、そこにあるアイテムは入手できる。コソ泥みたいで気持ち悪ぃけどな。
そんな某有名RPGがあるのは日本国民ならよく知っているだろうと思う。ここじゃ小さなメダルは出てこないけどな。
渦に入るとまずは南門に出る。都市は正方形の城塞都市だ。外には出られないようになっている。
ここからしらみつぶしに見て回る。ある意味、一番時間がかかりそうだ。
1層のモンスターはHP20のオオコガネムシとHP50のカモンキャットだ。
オオコガネムシは姉ちゃんが熟練度上げのためにカッターやスラッシュ、トライデルでどんどん狩っていく。武器は鉄の槍に持ち替えている。
カモンキャットはおれがアイテム狙いで、『ソルマ』や『ソルミ』を使って倒す。ドロップ率を上げたいからだ。
中央広場の北西角にある大きな建物の2階が、2層への渦がある場所だった。たぶん、この都市という廃墟で一番大きな商会なのだろうと思う。
途中、侵入した家屋をいろいろと調べるのを姉ちゃんは最初ためらっていた。
「本当に人はいないの?」
「いない。これは町に見えるけど町じゃねぇよ、姉ちゃん。ただのダンジョンだからな。ここにある物は見つけた人の物。だから探して持って帰ればいい」
「……どろぼうみたいでなんかいやだわ」
「そう言われてもなあ……」
5軒、6軒と探索を進め、時にモンスターを倒していくうちに、姉ちゃんもあきらめていろいろとあさるようになっていった。
どこかの引き出しや、つぼの中などから『風押しの扇』をいくつか発見した。
戦闘時に使用すると、戦闘終了まですばやさ1.5倍、また、戦闘中にすばやさ低下デバフを受けた時に使うとデバフを消してくれるというアイテムだ。
どっちかというと、デバフ消しに使う。風の神系魔法にすばやさ2倍のバイアーギや3倍のトライアーギがあるからな。ただし魔法だと60秒間だけど。
7匹目に狩ったカモンキャットが『猫の手』をドロップした。狙っていたアイテムはこれだ。
生産系魔法スキルの効果を2倍にしてくれるという実はとんでもアイテム。きっと作業に猫の手を借りてくるんだろうと思う。ある意味では消費MPを半減してくれるとも言える。素材は完成品分だから、2倍必要になるけどな。
これを使って、明日の朝、マジポを作るのだ。MPぎりぎりまでな!
残りSPを確認しつつ、2層へと渦に飛び込んで移動する。
2層は6角形の城塞都市で、やはり南門からスタートする。もちろん外には出られないし、人は誰もいない。
モンスターはHP400クラスで、ホワイトアナコンダは面倒な相手だ。
ただし、カッターやスラッシュ、トライデルで一撃なので特に問題はない。もーまんたいだ。
こっちがミスると毒を吐いてくる。噛みつくんじゃなくて吐いてくるのはなんでだろうな?
しかも強毒攻撃だ。毒を浴びたら1分間に5ダメージ。60分間継続する。ライポを飲んで耐えればいいけど。
あとは、巻つき攻撃がある。巻きつかれたら通常攻撃しかできない上に継続ダメージが入る。
ドロップは蛇皮。蛇皮の使い道は『幸運の財布』の素材だ。
ゲームではドロップするお金が1.5倍になったんだけど……ここじゃ、フツーに森で狩るようなモンスターはお金をドロップしねぇもんなぁ。
狸タイプのモンスター、ポンポコリンもこれまた面倒な相手だ。隠密系で、都市内の何かに変化して隠れてる。背後からの不意打ちを喰らって戦闘スタートだ。
必ず1撃もらうので、このタイプは本当にいやらしいと思う。姿を見せればスキルで1撃なのはホワイトアナコンダと同じ。
北門から中央広場に向かう大通りの途中に、周囲を塀で囲まれた大きな屋敷があった。たぶん政庁となる貴族の屋敷、領主邸だと思う。
中に入ると1階の奥にダンスホールっぽい広いところがあって、そこにボスモンスターがいた。
巨大なクモのモンスター。そのまんま、ジャイアントスパイダーだ。
できるだけ近づかずにHPバーを数えて確認したら逃走する。部屋を出るぎりぎりで追いつかれそうになったが、ダンスホールから出ると追ってこなかった。
やっかいなすばやさが高いタイプのモンスターで、ケツを向けたら要注意。粘着糸のネットを吐きだす……吐き出す? ケツから? なんて言えばいいんだ?
とにかくすばやさ低下デバフが入る。ジャイアントスパイダー自体がかなりすばやいので、デバフを喰らえば先に攻撃され続けることになる。
HP7200だ。また作戦は考えないとな。
ボスから逃走した後は、2層を駆け回って石版を捜索する。
2枚の石版を見つけた時点で残りSPが4割となったので、帰還する。
明日も、ここの2層を探索し、ボス戦はお預けで熟練度アップを狙う。ポンポコリンからは1撃喰らうし、耐力も伸びる可能性があるからな。3枚目の石版が早く見つかったら、医薬神の神殿へ移動して、3層でレベ上げだ。
どうせ、最後の石版はボスモンスターからドロップするに違いない。弱点が火というのが人食い魔木と同じだから残念過ぎる。火で戦って倒すと、たぶんドロップしないんだろうな、と。
商業神のダンジョンを出たら農業神のダンジョンで熟練度上げを意識して狩りを続ける。
特上肉がけっこーたくさん手に入ったのは嬉しかった。ジョジョ、サンクス!
夕食後、寝る前、姉ちゃんがぎゅって……ぎゅって抱きしめてくれた。
たぶん、仲直りのぎゅーなのではないかと推察するのでござるよ。
6日目。
朝からMPを計算して、薬草の数を確認して、特殊なアイテムである『猫の手』を使い、マジックポーションをたっぷりと作成する。
姉ちゃんにリピートアフターミーで呪文を教えたとしたら、もうレベルは足りてるのでマジポを作成できると思うけど、今日は『聖者の指輪』を借りたいからダメだ。明日にする。
指輪の貸し借りについて、姉ちゃんがちょっと複雑そうな顔をした。どういう気持ちかいまいちわからなかったが、なんとなく嫌そうな感じはした。
でも、最終的には『聖者の指輪』を外して、おれの左手の薬指にはめてくれた。なんで手渡しじゃねぇの? とか思ったけど、なんか言うと怒られそうな気がしたので黙る。正直なところ、姉ちゃんに指輪はめてもらう時はちょっとドキドキしてしまったしな。
商業神のダンジョンで2時間ぐらい探索し、2層で3枚目の石版を発見した。リタウニングの呪文の完成まであと1枚だ。
MPも130以上回復したので、『聖者の指輪』を外して姉ちゃんに差し出す。
すると、姉ちゃんが左手を伸ばして指を広げた。どうやら手渡しでなく、指にはめろ、ということらしい。
なんだかドキドキしながら、姉ちゃんの左手の薬指に指輪をはめた。
最初にはめた時もそうだったけど、なんでこういうのってドキドキすんだろうな? 「ディー」だからかな? 「ディー」ってそういうもんなのかな? 他の「ディー」に聞いたことねぇからわかんねぇよな?
どうにも変な感じだ。嫌ではないけどな。嫌ではないんだけども。どっちかっつーと、なんかほんわか幸せなんだけども! でも大好きとはいえ、相手はあくまでも姉ちゃんだからな!
商業神のダンジョンを出て、医薬神の神殿へと移動する。
渦ではすぐに3層を目指す。さらに、すぐ2層へと下りる。
リポップしたボスの人食い魔木を昨日と同じようにクールタイムスイッチであっさりと倒す。倒し方が決まったボスなど、ある意味、おまえは既に死んでいる、という感じで素材か宝箱のようなものだ。
そんなことを考えながら狩ったせいか、なんと『人食い魔木の枝』がドロップ。
しかも、素材系アイテムでも、特殊アイテムでもなく、武器判定だった。
呪われそうだなとか思いながら装備してみると、タッパの表示で武器補正が50だと!? 木の枝のくせに50! すげぇな人食い魔木! クワドラプルだと50×4の200ダメ増えるじゃん!
これがあったらあん時ビエンナーレ倒せてたんじゃねぇーか、ひょっとして?
まあ、すでにミスリルソードという武器補正200の剣を手にしたので、ある意味でマジでいらねぇ装備かもしれんけどな。とりあえずストレージのこやしにしとこうか。
3層に上がって、レベ上げに取り組む。
トレント2体が出た。
範囲攻撃魔法のヒエンアイラセでどっちもタゲ取りして、おれが大きく回り込んでトレント2にツインをぶちかまして倒し、寄せてきたトレント1がおれを攻撃しようとするタイミングで回り込んでた姉ちゃんが時間差でツインを後ろからぶち込む。
そうすると、おれがダメージを受ける直前で姉ちゃんにターゲットが移って、トレント1が向きを変えたところで、おれがツイン……のスラッシュのところでトレント1をしとめる。
倒し方とか、タイミングとかで、ダメージを受けないように工夫はできる。
これが2対2だからといって、真っ向勝負をすれば、ツイン1発でトレントをまだ倒せない姉ちゃんはダメージを受ける。
問題はトレント3体と遭遇した時だろうな。
前回と同じように姉ちゃんがおれを守ってダメージを受けようとしたら、これから先、おれと姉ちゃんはペアを組んで戦っても、どっちかがいずれ死ぬことになるんじゃねぇかな、と思う。
姉ちゃんのステ値が見えねぇってのが、けっこーネックになってる気がする。ここまでは大丈夫だという確信が持てないもんな。
医薬神ダンジョンの3層ではトレント以外に、HP2000クラスでアモルポパルスタイタンという巨大な花のモンスターが出る。通称『ヤバクサ』だ。2体で出てくる。
猛烈な臭さだと思ったら、強毒攻撃を受けているという怖ろしい花。強毒攻撃は別のモンスターでもあったけど、1分5ダメが60分間継続する。ライポを飲んで対処すればいいんだけど、HP管理には気をつけないといけない。
HP2000は姉ちゃんがまだ1撃でしとめられないから、周囲に他のモンスターがいないなら、強毒攻撃を受けない中距離を保って後退しながら火の神系魔法で削り、1撃で倒せるところを見極めて時間差アタックで倒す。
前からヤバクサ、後ろからトレントとか挟まれたりする前に、周囲を警戒してよりよい立ち位置を確保しておくことが重要だよな。まあ、挟まれたら、先にトレントを始末してから、ヤバクサを中距離対応するけどな。
ヤバクサの強毒攻撃は範囲攻撃なので、戦闘終了後に姉ちゃんと二人並んでライポを飲むこともある。まるでふぁいとーっいっぱぁーっつな感じだ。全然違うけどな。思わず腰に手をあててたりして。
1撃で倒せない格上だからこそ、レベル上げにはいい。おれも適正レベルなので、経験値はしっかりと入ってくるから、3層での狩りはアリ。
そろそろ帰るか、というタイミングでトレント3体と遭遇。
逃げてもよかったけど、姉ちゃんと目が合うと、姉ちゃんがこくりとうなずいてた。やる気だ。
もう余計なことは言わずに、姉ちゃんを信じて、範囲魔法を発動させてから走り始めたおれは、予備動作をしながらさらに単体型魔法をふたつ発動させて、右端のトレント3へと回り込む。
3体ともおれを狙って動き、トレント3はツインで消えて薬草ドロップ。
姉ちゃんはトレント2体の背後に回り込んだ。
トレント2の3回攻撃がおれを襲う。
でも姉ちゃんは我慢して待ってる。すんごい顔して我慢して待ってる。そんなに嫌な顔しなくてもいいから、姉ちゃん!
おれが攻撃を受けてる時に、姉ちゃんが槍ツインを発動し、スラッシュでは2体同時攻撃を決め、カッターはトレント1にぶちかました。
姉ちゃんが技後硬直に入り、タゲ取りしたトレント2が姉ちゃんに向かう。
技後硬直が解けたおれはトレント2を背後からカッターで始末する。
その間に、技後硬直中の姉ちゃんはトレント1から3回攻撃を受ける。
技後硬直が解けた姉ちゃんは後退しながら防御姿勢を取り、わずかな時間を稼ぐ。そのわずかな時間で、技後硬直の解けたおれのカッターが間に合い、姉ちゃんが2度目の攻撃を受ける直前にトレント1が消える。
おれと姉ちゃんはダメージを分け合いながら、トレント3体を倒した。
リベンジ、だ。おれの中では。
おれは姉ちゃんにライポを手渡し、おれも1本、ライポを飲む。
本当にふぁぃとーっいっぱぁーっつ、と叫びたい気持ちで、ライポを飲み終えたら姉ちゃんに抱き着いたのだった。
……なんだか照れた姉ちゃんから久しぶりにゲンコツをもらったけど、痛くても顔がにやけてしまうのが不思議だった。
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