アインの伝説 ~気づいた時にはもう遅い? 転生したら滅んだ村の生き残りで、勇者の幼なじみなのになかなか名前を思い出してもらえないという極めつけの脇役だったんだけどさ、どうしたらいいと思う?~

相生蒼尉

木の枝の伝説(1)





風吹く大地を


枷なく生きたい


でも


世界がそれを許さない




魔に染められた地に


間に合わず流れる血


すべてを奪われ、絶望に沈む




それでも生きろと


それでもあがけと


言うのであれば




たったひとつだけ


ほしいものがある






それは






希望






希望がないのか


そう問われて


何も言えずに見つめ返す




支えてくれる人がいる


守りたい人がいる


かけがえのない友がいる




それでもダメかと




立ち上がる少年と


逃げられぬ正念場






世界を






救え
































 目が覚めたら、なんか、いつもより周りがぼんやりとしててよく見えないというか。


 体を起こそうと思ってもうまく動かせなくて。


 目はよく見えないし、身体はうまく動かない。


 ・・・これは、気づかぬうちに事故にでも遭ってしまったか?


 そう思ってたら、なんか声が聞こえてきたんだけど。




「○△○○□・・・」


「△△、○○○○・・・」




 ・・・?


 耳が聴こえないって訳じゃなく。


 知らない言葉?


 どこの外国語だ?


 少なくとも英語ではないはず?


 いや、そもそも、なんでこんなところで外国語?


 海外へ行く航空機に乗ってて事故に遭ったのか? そんなら生きてただけでもめっけもんだと思うんだがな・・・。


 いったいおれはどうなってしまったんだ?


 誰か教えてくれーっっ・・・。
















 ・・・そんなことを思っていたこともありました、と。


 三か月前のことだけどなっ。


 今はとりあえず絶好調。


 ・・・今、何してるかって?


 ふふふ。


 聞いて驚け。






 おれは今、おっぱいに口づけをしておるわ。






 苦節三十数年・・・「ディー」の名を持つ男の中の男として賢者の道を歩み、あと数年もすれば大賢者間違いなしというところまで道を極めてきたおれ様だったが。


 こんな日がわしに訪れるとは、世の中は捨てたもんじゃないのう、のほほほ~。






 ぴんと立った乳首をくわえて強めに吸いつき・・・。






 えっ?


 何、何だよ?


 ・・・R指定? 大丈夫、大丈夫。


 問題ないよ、もーまんたい。


 だって、おれ。








 赤ちゃんだもの。












 赤ちゃんのくせによくしゃべるな、だって?


 ・・・確かに。


 赤ちゃんはこんなにしゃべんないよな、フツー。


 だいたい、そうだな。






 はーい。




 ちゃーん。




 ばぶー。






 赤ちゃんだったらこんなもんかな。


 あ、赤ちゃんじゃねーか、タラちゃんか。




 ・・・イクラちゃんですね、はい。ツッコミありがとな。


 あんま、ちょっとした間違いに目くじら立てない方がいいと思うよ?


 え? 赤ちゃんがめちゃめちゃしゃべる説明になってないって?


 そうだよな、説明してないし。


 でもまあ説明って言ってもだな、たぶんこうだ、ってくらいでしかないんだけどな。










 どうやらおれは前世の記憶をもったままで生まれ変わってしまったようだ。










 ・・・とまあ、そんな一文でおしまいなのです、はい。


 前世の記憶はあるけど今は赤ちゃんだからな。赤ちゃんだからもちろんおっぱいは大好きだけど、おっぱい以外のことも考えてるからな!


 今は全力で栄養を補給しながら、言葉を必死で覚えようと努力中ですね、はい。


 言葉が日本語じゃねーんだもん。何語か知らないけどさ。


 今んとこ、おれの名前が「アイン」だってことは理解できた。何回もそう呼ばれるんだから間違いないよな? まさか「アイン」って言葉が「奴隷」って意味で、おい奴隷、こら奴隷とか呼ばれてるなんてことは・・・ないよな? ないって言ってほしい・・・。


 ・・・って、それくらい言葉全体はまだよく分かんねー。


 あとはー、そーだな。


 現代日本から考えると、なんか、とんでもない離島か、山奥か。


 電気もねぇー、水道ねぇー、ガスもねぇー、だよ。


 建物は木造建築なんだけど、床はなくて地面だしな。ばりばり土足で。壁は板と板の間に換気用かよってくらい隙間はあるし。でも、空気はうまい・・・気がする、たぶん。


 ま、とりあえず。


 せっかくこんな状態なんだ。


 それならここは・・・。








 ・・・おっぱいを堪能する、だと?








 ちげーよ!


 そこじゃねーよ!


 元童貞が赤ちゃんになった、じゃなくて! そこじゃなくて!


 大事なのは、前世の記憶がある赤ちゃん! こっちですから!


 ・・・こりゃもうチートだろ、チート。


 ここがどこだか分かんないけど、現代日本の教育を受けて育ち、日本社会で生きてきたんだ。


 読み書き計算、世界トップクラスだぜぃ?




 ふふふふふふ。




 間違いなく「神童」って奴にはなれる!


 ここからおれの人生は変わる! はず!


 ・・・って新しい人生で赤ちゃんはじめてまだ三か月でしたね、はい。


 え?


 小さい頃に「神童」って言われても、成長したら「ただの人」になるんじゃないかって?


 ・・・そういう夢のないこと言うなよ。正直、おれだってそんくらい感じてるよ。よく読めよ。だから「~になれる」じゃなくて「~にはなれる」になってんだろ? 前世で三十過ぎるまで生きたんだ。努力が必要だなんて分かってるって。


 だから赤ちゃんの今から、おっぱいもほどほどにがんばってんじゃねーか。








 ・・・ごめんなさい、ウソです。全力で吸ってます。そりゃもう、これでもかってくらいすっぽん並みに全力ですが何か問題でも? ・・・だっておれは「ディー」なんだよ? おまえらに賢者「ディー」の気持ちがわかんのかよ? いや、そりゃ、わかる人にはわかるだろーけどな。








 それに、かあちゃん、めっちゃかわいいんだぞ? うらやましいか?


 ・・・というか。かあちゃん十代後半くらいだと思うんだけど、ここ、結婚と出産、早くねーか?






 ・・・え、そのおっぱいに全力はまずいって?






 何言ってんだ、おまえ。おれは今、赤ちゃんなんだよ。タラちゃんじゃねーよ、イクラちゃんよりもまだ下なんだよ。


 オールセーフだ。もーまんたい。


 赤ちゃんへの授乳はな、全てに優先すんだよ。


 そもそもさー、日放協だってみなうたで「おっぱい」をいっぱい連呼するような歌流してんだろ?


 問題ねぇって。は? 日放協って何、だと? 知らないの? エヌでエッチな漱石さまのこころだよ。正確には下で先生と遺書か?


 ・・・いやもうおっぱいの話とか、エッチな話とかはどうでもいいよ。


 とにかくおれはとりあえず「神童」目指して頑張って、そのまま優秀な何かになってやる。


 そういう決意をしてんだよって話だな。


















 ・・・そんなことを思っていたこともありました、と。これ、二回目だな。


 おれ、アイン、6歳。


 アインが「奴隷」って意味じゃなくてよかった、ホント。いや、進みがはえーっつーか。いや、五年と数カ月は実際長かったんだけど。あ、こっちでは一年の最初に全員一度に年齢を増やすんだ。つまり、日本で言えば元旦にみんな年齢を重ねる、と。誕生日っていう感覚はなくて。


 ちなみに一年は十二か月なんだけど360日だったりする。しかも月の数え方が全然ちがうんだな、これが。日本でいう一月は、青の新月、という。青のってのは、実は月の色が四色あって・・・いやマジですから。青の月、白の月、黄の月、赤の月という四色でそれぞれ新月が30日、半月が30日、満月が30日あって、青の新月が1月、青の半月が2月みたいな? 合計で12か月の360日だ。


 ・・・ここまで話せば気づいたと思うけど、これ、ふぁんたじぃなお話だな。僻地に生まれ変わったんじゃなくて、別世界とか、異世界とかだったらしい。そのことに気づいたのは1歳になってすぐくらいだけどな。


 なんか文明レベルが現代日本と全然ちがうんだから気づくよ、そりゃ。赤ちゃんでも。いや、前世の記憶がない赤ちゃんには無理かもってゆーかムリだけどな。


 だからおれは思ったね。必死で言葉を覚えて、目指すは内政チートだって。


 もうこれは定番ですよ。もう確実にそうですとも。前世の記憶なんてそのためにあるに決まってるはずだよな。そうだ、そうに違いない、おれの中のおれによるおれのための帝国議会で賛成多数で可決だな!


 3歳で大人顔負けの言葉つかって、ご近所さんの村長さん家にレッツゴー。子どものふりして、ねぇこれなんて読むの、とか村長さんに質問しまくって、村長さんの孫娘のシャーリーひとつ年下の美幼女をかまいまくって仲良くしつつ・・・。


 言葉だけでなく、文字と数字もばっちり覚えましたとも。パーペキですな、パーペキ。パーフェクトに完ぺきですとも。ぺきの漢字は璧です。壁ではないですよってくらい文字もばっちり。ここまで全力ですよ、全力。


 もはや村人たちの認識はこっちの予定通り。








 神童。神童アイン。








 その一言に尽きるのですよ。


 やりましたよみなさん。


 おれはやりました。


 いやー、やっぱ現代日本の教育すげーわ。


 特に計算。


 九九の暗記って、こっちじゃ奇跡みたいなもんなんだけど、どう思う?


 村長さんレベルで足し算や引き算に間違いたくさん、みたいな?


 掛け算割り算する人いねぇ、みたいな?


 小学生レベルで村長の上に立つ感じ・・・いやこれ、別に現代日本の教育のすごさ関係ねーじゃねーか・・・。


 でも、これ、マジで内政チートいけるんじゃね?


 朝は父ちゃんが畑に連れて行こうとするのをうまく逃げて村長さん家へ駆けこみ、ひとつ年下のかわいいシャーリーをかまいながら村長さんのお手伝い・・・というか、村長さんの代わりに税の計算をしているおれアイン6歳。


 間違いなく神童と言っても過言ではないレベルだな。ここでなら。今ココでならな! もうすでにそう呼ばれてるけどな!


 麦7袋、いも12袋、薬草5袋、そのうち税としては何分の1が・・・みたいな感じで計算するのがおれの仕事になってる。最近はもう父ちゃんもおれを畑に連れて行くのはあきらめたらしい。村長さんからもそう頼まれたみたい。もう村長さんはおれなしでは働けない体になったんだな・・・むふふふふふ。というか、働いてるのおれで村長さんさぼってっけどな。村長さん、最近はもうおれのことシャーリーの婿にするつもりみたいだし。こりゃもう未来の村の支配者に確定かな?


 しかもお昼過ぎにはのんびり自分の家に帰るという。出勤はなんと午前のみだ。超ホワイト企業・・・いや、税の計算なんだから超ホワイト公務員なのか?


 ま、家に帰っても別になんもないんだけどな。


 お昼ごはんはない。


 朝食と夕食の一日二食がここではフツー。晩飯ではなく夕食。太陽が沈む前に食う。太陽が沈んで暗くなったら寝る。火をつけてるともったいないらしい。あ、太陽は月とちがってひとつ。たぶん、月も本当はひとつでなんかの現象で色がちがって見えるだけだと思うけど証明できない。明かりだけに。照明。なんちて。


 村長さん家から自分の家まで歩きながら、景色を見る。


 雄大な大自然。


 スーパー大自然。


 もう、はっきり言って、なんもないくらい大自然。


 とにかくあっちからこっちまで大自然。


 森の向こうにでっかい山脈、そん中でも飛び抜けて高そうな白と青に輝く山が見える。


 あれが、あの山がよく見えるってことは、本日はスーパー快晴。めっちゃ晴れ。










 なんか、あの山、見覚えがあるんだよなあ・・・。










 まーにぃーそめられたちぃにぃー。


 まーにぃあわずぅながれるぅちぃー。










 思わず口から変なフレーズが・・・。


 あれ? これ、なんの歌だったっけ?


 なんか、よく覚えてるような、忘れたような?


 ・・・待て待て。


 落ち着け、おれ。落ち着くんだ。


 これはひょっとして、ひょっとすると。


 歌チートもいけるか? いけるのか? 歌で稼ぐとかありなのか? ありなんじゃないか?


 ・・・とまあ、そんなことばっかり考えてんのもなんだよなあ。


 前世の記憶でチート、チートって、楽しようと思っても意外と楽じゃないもんだな。あ、午前中で仕事あがりの楽勝状態で言うことじゃねーか。


 ・・・しっかし、なんの歌だっけか?








「こらーっ、アインーっ!」






 ・・・歌について思い出そうと考えていたら、天敵があらわれた。




 アインは逃げ出した。




 しかし回り込まれて困った! ・・・いや、しまった!








「アイン?」


 6歳のおれより少し背の高い女の子が、まさに不敵なというのにふさわしい、なんだかこわいお顔で立ちふさがっていらっしゃるのです。


「ねえちゃん・・・」


 ・・・そう。


 この天敵こそがわが姉、イエナ。


 父ちゃんでさえもうあきらめている畑仕事の手伝いをおれにさせようとする横暴なパワハラ上司!


 姉ちゃんはがしっとおれの手首を掴んで、そのまま引っ張って歩きだす。もちろん、おれはそれに引きずられるようについていく。ついていきたい訳ではないけどな。パワハラ確定だな!


「はたけしごとにいくわよ、アイン」


「おれ、もう、そんちょーさんのてつだいしたよ?」


 いちおー、抵抗を試みる。あくまでもいちおー、だ。


「おわったならおうちのてつだいすればいいわ」


「ええー・・・」


「アインって、ほんとーにばかよね」


 何をこの、乱雑女め!


 おれが神童と呼ばれてることを知らないの? ねえ、知らないの? もう村のみんなはそういう認識なんだけど? ときどきおれの耳に直接聞こえてくるレベルで!


「むらのみんなからだんどーとかいわれてあたまくさったわね?」


 ・・・姉ちゃんは知らなかった。おれが神童と呼ばれてること。


 なんだそのめちゃめちゃゴルフのうまい少年みたいなやつは。それとヒドイ。本当にヒドイ。頭腐ったとか暴言にもほどがある。


「・・・ねえちゃん、だんどーじゃないよ」


「え? ちがった? けんどーだっけ?」


 それは日本の義務教育で学ぶように決められた武道のひとつ。選択できるけどな。教師側が!


「まあ、どっちでもいいけど、はたけしごとはだいじだわ? わかる?」


「なんで?」


「たべないとひとはしぬわ。たべるにははたけしごとがいるわ。あたしたちはいきてるし、これからもいきるのよ?」


 ・・・真理だ。


 参った。


 完敗だ。


 完敗としか言いようのない完全なる敗北だ。


 チートなしでこんな哲学的なこと言えるなんて、神童は姉ちゃんの方じゃねーのか?










 おれはそんなことを考えているうちに、さっき思い出しかけた歌のことをすっかり忘れてしまったのだった。






 もちろん、畑仕事は横暴なパワハラ上司監督のもとみっちりやらされました。とほほ・・・。














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