アメリカフヨウ

 街コンなんて俺好みの淑やかな女性が来るような場所じゃないだろうと思っていたけれど、どうやらそれは、とんでもない勘違いだったようだ。

 清楚、という言葉がピタリとハマる、どこか儚げな美人が、なぜか先ほどから俺の前で楽しそうに笑っている。

「アオイさんって、今どきの感じじゃないですよね。いや、悪い意味じゃなくて」

 俺の失言にもふふふと笑って「そうですか?」と首を傾げる、それだけの仕草が上品で、嘘みたいだ。

「家風が古くて、父に厳しく育てられたんです。それでかも」

 父親が厳しいのはちょっと怖いな、などと思いつつも、これだけ好みに合致した女性とこの場限りでさよならなんて勿体ない。この後、別の店でちょっと飲みなおしませんかと誘うと、快く頷いてくれた。それで、少し気が緩んでいたのかもしれない。繁華街で柄の悪い男たちにぶつかり、絡まれてしまった。

「ようよう兄ちゃん、どこ見て歩いてんじゃオラァ」

「可愛い彼女連れて調子乗ってんとちゃうか」

 はははすみません、と頭を下げてやり過ごそうと思ったとき、背後から威勢の良い掛け声が聞こえた。うらあ! とか、そんな言語化しづらい声だったと思う。それがアオイさんのものだと気がつくより早く、目の前の男が地に倒れ伏した。

「……は?」

 俺が呆気にとられる前で、アオイさんのパンプスが、もうひとりの男の顔面にめり込む。

「調子こいてんのはどっちだ、ああ? アタシの連れに気安く絡んでんじゃねえ!」

 体格の良い男二人を軽く気絶させ、アオイさんは少しの間、息を整えていた。そして、恐る恐る、こちらを見た。

「……ごめんなさい、さっきまでのは演技だったんです……本当の私はこんなで……嫌いになっちゃいましたよね」

 寂しそうなその笑顔に、気がつけば俺は首を振っていた。好みのタイプが、もう一項目、増えた。

「淑やかに見える強い女性が、俺の好みなんです」

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