ローマンカモミール

 生まれたときから難病を患い、家は貧しく周りに蔑まれ、衣食住に満たされることがなく、そんな中でもどうにか補助を得て勉学に励み、アルバイトを掛け持ちして何度も過労で倒れ、それでも決して腐ることなく、数十年の後に大成した男が、演台に立った。

 穏やかに半生を話し終えた彼に、ひとりの質問者が尋ねた。

「なぜあなたは、そのような逆境にも負けずに、ここまで来られたのでしょうか」

 男は微笑み、聴衆を見渡した。

「よく聞かれますよ。けれども、そもそも私は、私の通ってきた道を、逆境だと思ったことがないのです。だって、それが私にとっては当たり前でしたから。他の人の生き方なんて、知りません。私は、他の人として生きたことがないのですから。私は自分の道を生きてきて、これからも自分の道を生きていく。ただ、それだけです」

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