アストランティア

 坊っちゃまのご様子が変なのです。顔色が悪く、口数も少なく、いつも俯いているのです。あんなにお庭で遊ばれるのを楽しみにしていたのに、部屋から外に出ようともなさいません。

 廊下で、メイドたちが喋っているのが聞こえました。親の愛情が不足しているのだと。

 愛情、とは何でしょう。それがあれば、坊っちゃまの不調は治るのでしょうか。メイドたちに聞いてみましたが、機械には分からないわよと笑われるばかりで、一向に要領を得ませんでした。

 お医者様、ご聡明な貴方ならお分かりになるでしょう。愛情とは何でしょうか。どうしたら、それを坊っちゃまに差し上げることが出来るのでしょう。私は単純な仕事しか出来ない、つまらない雑用ロボットに過ぎませんが、坊っちゃまのことなら、よく存じ上げているのです。よく笑い、私に話しかけ、いつも仕事中にまとわりついて来た坊っちゃまの、その表情や動作を、全て記憶しています。今の坊っちゃまは、私の知らない坊っちゃまです。私は、あの方の不調を治して差し上げたいのです。

 お医者様、今、なんと仰ったのですか。うまく聞き取れませんでした。……愛情は、私が既に持っている? 申し訳ありません、私には意味が分かりません。お医者様、つまり、どうしたらよろしいのですか。……帰って、いつものように坊っちゃまに接する? それだけですか?

 ええ、分かりました。私などより余程、人間の機微に通じてらっしゃる貴方のご指示に従います。きっとそうすることで、坊っちゃまは元の笑顔を取り戻してくれるのでしょう。ありがとうございます。

 坊っちゃま、待っていてください。今、私があなたの元に戻りますからね。

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