トリトニア

 友人の親馬鹿度合いが激しい。彼が結婚してすぐに誕生した女の子はまだ一歳にもならないのに、既に通わせたい幼稚園から学校、就職先まで決めてしまっていると言う。困ったことには、毎日、可愛らしい赤ん坊服を着せられた子どもの写真が送られてきて、必ずコメントを求められるのだ。可愛い、以外に何を言えば良いのか。

 そんな彼と、久々に会う機会があった。本当なら今この瞬間も娘を抱っこしていたいんだけど、と不要の前置きをして、彼はまたも娘自慢を始めた。

「最近、何か言おうとするんだよね。アレは絶対、パパ、って言ってると思うんだ。妻は笑うけどさ」

 そりゃあ笑うだろう。誰だって笑う。

 話の腰を折る気は毛頭ないので、私は黙って先を促す。

「妻は自分に似てるって言うし、まあ多分結構似てるんだけどさ、でも鼻のあたりが俺に似てるんだよ。成長したら絶対、間違いなく美人になる」

 その鼻に似てるのか、と余計なことを言いかけたが、頑張って黙る。人が幸せそうにしているのに、水を差す必要はない。

「でさ、そんな美人に育った娘が、どこの馬の骨とも知れない野郎を連れて来るかもしれないってことを考えると夜も寝られなくて」

 気が早いにも程がある。私は少々身を引きながら、彼の健康そのものの顔を見つめた。彼は爽やかな笑顔で言った。

「だから将来のお婿さんは、俺の遺伝子から作ったクローンにしようと思ってて。ほら、これから手軽にクローンを作れるって、CMでもやってるだろ」

 確かに技術は進歩して、最近では自分のクローンを作りたいと考える人が増えてきてはいる。けれど、それを娘の婿にしようなどと。

 私は結局、彼の前で一言も喋ることが出来なかった。意気揚々と去っていく後姿に、ようやく感想を吐き出せた。

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