アマ
世界的に有名な富豪がいた。彼は若くして財を築いたが滅多に表舞台には出ず、専らエージェントを雇って活動していた。決して公に姿を現さない彼のプライベートはあちこちで噂され、きっと陰でやましいことをしているのに違いないとメディアは騒ぎ立てた。
富豪は、平均的な年齢でこの世を去った。彼の姿は遺影として初めて公開され、遺族だけの葬儀が行われたあと、一般向けのセレモニーが行われた。集まったメディアは絶句した。セレモニーには富豪の仕事関係者だけでなく、ボロを纏ったホームレスや病人や老人、身寄りのない子どもたちを引き連れた施設の職員などが大勢参列したからだ。
「公開された遺影を見て、私たちを援助してくれたのが彼だったと知りました」
と、ある老婆は話した。
「強盗にすら無視されるような暮らしを、彼が変えてくれたんです」
と、ホームレスは言った。
「彼は毎朝、必ず、私の店の品物を買ってくれました。亡くなるその日まで、ずっとです。お陰でどうにか、今日までやって来られました」
と、ある男は涙した。
誰もが、彼への感謝を述べた。誰もが、彼の死を心の底から悼んでいた。
後になって、彼が支援した児童福祉施設出身の女が、その国の首相に選ばれた。彼女の画期的な福祉施策は国内だけでなく国外にも影響を及ぼし、結果として多くの人の、命と暮らしが救われることとなった。
その国では、親切が更に尊ばれるようになり、また同時に、よく知りもしないで悪い噂をばらまくことを諫める慣用句が出来た。
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