ボロニア
私たちが天国と呼ぶ星から、私たちが天使様と呼ぶ人たちが舞い降りる。荒廃し、水没し、荒れ果てた地球を哀れんで、残された全ての生き物に恵みを与えるために。
天使様の姿を見てはいけない。
それが、ここ数十年の間に地球人たちが確立したルールだった。天使様たちが舞い降りる時間になると、地球人は皆、地面に平伏し、彼らの施してくれる食べ物が配されるのを待つのだ。
なぜ姿を見てはいけないのか、私のような子どもは、その理由をまだ教わっていない。けれど、父が口を酸っぱくして言っていた。
天使様の姿を見ると、魂を吸い取られてしまう。
綺麗な翼を持つらしい天使様たちは、もしかするととても恐ろしい容貌をしているのかもしれない。それで、そんなルールが出来たのかもしれない。
さっきまでは、そう思っていた。
純白の羽根を地面に見つけ、拾い上げて、珍しく顔を出していた太陽に透かそうと顔を上げたところに、その天使様がいた。
声も出なかった。
あまりにも、美しすぎた。私が今までに見たどんな人間よりも、完成された美がそこにあった。憂いをたたえたような表情、肩に緩やかに下がった白髪、均整のとれた肢体。そして、地球に昔あったという宝石を思わせるような瞳が、私を捉えていた。
彼はそのまま飛び立ってしまったが、それからというもの、何を見ても心が動かなくなってしまった。今までは楽しかった家族や友人との会話も、食事も、ごくたまに見かけては癒されていた花々も、夜毎に輝く星々でさえも。
彼のあの瞳の前では、何もかもがくすんでしまう。何も楽しくないし、何も面白くない。
そう、これが理由だったのだ。私の魂はもう、ここにはないのだ。
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