シャクヤク

 あいつのことは、ずっと男子だと思っていた。いや、同じクラスなんだから女子だってことはさすがに知っていたんだけど、短く、ほとんど刈り上げたみたいな髪型も、いつもどこか擦りむいて絆創膏を貼っているやんちゃなところも、おれたち男子に混じって毎日グラウンドでサッカーをしているところも、どこをとっても女子には思えなかった。喋り方も他の女子みたいにおとなしくないし、遠慮しないでズバッと言うし、ゲハゲハ笑うし、スカートなんて着てるの見たことないし、大股開いて座るし、うん、やっぱり女子には思えなくて当たり前だ。

 それなのに、誰もいないと思って入った教室で、ジャージから私服に着替えていたあいつの顔が真っ赤になったとき、悪いことをしたなとか、ヤバいなとか、そういうことを思う前に、あ、可愛い、と思ってしまった。

「出てけよっ、この、ばか!」

 言葉遣いはいつもと同じなのに、ちょっと震えた声も、やっぱり可愛い。けど、その手が近くにあったサッカーボールを掴んだのが見えたから、慌てて廊下へ飛び出した。

 なんだよ、あいつ。男子じゃないんじゃん。

 放課後の廊下を早足で歩きながら、おれは、なんだか口元がうずうずするのを感じていた。

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