ニワゼキショウ

 カメラを構えると、息子たちは嫌そうな表情を作りながらも楽しげな顔を向けてくれる。

「パパ、またカメラ? 本当にカメラ好きだよね」

 そんな言葉に笑いながら、ファインダーの中の一瞬を捉える。恐らく刹那で駆け行く、幸せな時間の尻尾を捕まえる。

 自分も小さいころ、両親がことあるごとにカメラを向けてくるのに辟易していた。そんなものを覗いていないで、今このときを楽しく過ごすことに集中すれば良いのにと思った。

 しかし、今なら分かる。

 逃したくない一瞬というものが、この世にはこんなにもたくさんあるのだと、子どもが出来て初めて知った。初めての行動、初めての感動、初めての表情。日々、更新されるそれらの幸福は、脳というフォルダには、とても収まりきらない。彼ら小さなやんちゃものたちの、小さな冒険のあとを余すところなく残しておくには、とても容量が足りない。

 見返す暇さえないほどに毎瞬きらめく彼らという存在へ、限りない祝福の思いを込めて、私はまた、シャッターを切る。

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