ムラサキツメクサ

 同僚のアカツメさんは勤勉で、朝から眠い目をこすりダラダラ仕事を始める俺とは対照的にテキパキと働き、どんなときでも、遅れも休みもしなかった。誰にどんな仕事を振られようとも笑顔で引き受け、毎朝誰より早く出勤して、誰より遅く職場に残っていた。

 最近はリモートワークが増えて、アカツメさんと直接顔を合わせることは少なくなったが、彼はやはり勤勉に、自宅で黙々と仕事をこなしているようだった。

 だから、久々に出勤し、隣の机に生花が飾られているのを見たときは心臓が止まりそうになった。いやいや、こんな悪い冗談みたいなこと、誰がやったんすか、アカツメさん怒りますよ、と辺りを見回すと、課長が沈んだ面持ちで、冗談じゃないんだよ、と言った。

 アカツメ君は自宅で一週間前に亡くなったんだ。

 その言葉に、今度は背筋が寒くなる。

 え、でも一週間前って、俺、アカツメさんとメールで仕事のやりとりしましたけど。

 課長含め、その場の全員が肯いた。

 そう、そうなんだよ。彼、あんな性格だろ。どうやら死んでも暫く、仕事、してたらしい。

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