シバザクラ

 私を喪ってから、毎日毎晩、泣き続ける貴方を見ていられなかったのです。地の底の国で腐りながら、貴方の涙に降られるのも、耐え難かったのです。そこで地の底の女王にあらゆる献上品を奉り、地上に少しの間だけ、戻れるよう取り計らっていただいたのです。

 貴方を安心させたかった。そして、貴方にはいくつもの可能性があることに気付いて欲しかった。そうすれば私も安心して、地の底に戻ることができると思いました。

 夜を選んだのは、この姿を見せたくなかったから。土に還るため、小動物や虫たちに提供している、このボロ布の様な体を、見せたくなかったからでした。しかし声だけでは満足できなかった貴方は、灯りをつけてしまった。

 ねえ、そんな顔をしないでください。お願いですから、後退らないで。こんなつもりではありませんでした。もっと、もっと……。

 ああ、もう時間です。地の底の女王が呼んでいます。こうして貴方の前に現れることは、もう二度とないでしょう。せめて、今晩のことは忘れてください。悪い夢だったのだと。そしてどうか、生きていた頃の私のことだけを、胸に刻んでおいてください。

 それでは永遠に、さようなら。

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