ハナズオウ

 神を殺したということは、私の信仰が失われたのだと、あなた方は言うのでしょう。私や他の信者たち、そして神様であるあの御方とで完結する完璧な円環を断ち切るということは、その外にいるあなた方からすれば、そのように見えるのでしょう。

 しかし、それは違います。私があの御方を殺したのは、ひとえに信仰ゆえ。

 あの御方は情け深く、聡く、未来を見通してらっしゃいました。独特の教義によってマスコミが変な騒ぎ方をしたときも、その器の広さを改めて示すばかりでした。あの御方は人類を遥かに超越していました。然るべき未来には恐らく動物という枠をも、いや生命をも超えたことでしょう。

 でも、そのときを待たずして、あの御方は神に相応しくないものになってしまいました。

 高潔で清いあの御方が、あろうことか、この私などに御心をお懸けになったのでございます。誰も肩を並ぶべくのないあの御方が、私の前に跪いて愛を乞うたのです。

 その姿の、なんと浅ましかったことでしょう。

 私の信仰が汚されたのは、そのときです。神は地に堕ちました。私は私の信仰を守るために、堕ちた神を殺さねばならなかったのです。

 ですから、あの御方が醜い俗物になりきらぬうちに、私のこの手で清めて差し上げられたのは僥倖でした。あの御方はかろうじて、その神聖さの名残を留めたまま逝かれました。そしてそれによって、私たちの神は、永遠のものとなったのです。

 老いも耄碌もしない、今現在のあの御方こそ、真実の神でなくて何でしょう。私は本当に、偉業を成し遂げました。あなた方の判決がどうあれ、私のこの清々しい気持ちは、永劫、消えることはありません。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る