ヘムロック

 彼女は宵闇を連れて来た。薄紫の長衣が残り僅かな夕陽に翻り、私の家の扉を塞ぐ。

「君が来たということは、とうとうなんだな」

 私の言葉に彼女は頷き、同時に扉が閉まった。

 彼女の姿はここ数ヶ月、毎日見かけていた。雑踏の中に、撮影した写真に、気紛れにつけたテレビの画面の中に。最初はちらりと見えていただけだったのが、日を増すごとにハッキリとした姿になり、そして今、その全身を私の前に現したのだった。

 彼女は何をするでもなかった。ただ、入ってきた場所に佇み、私が夕飯の支度をするのを見ていた。ものも言わず、おそらく息もしていなかった。それはただ、私の目には女の姿に見えているだけなのだ。

 食事を終え、体を清め、寝床に横たわった私の側に、女は音もなくやって来た。その緑の目が私の内を確認するのを感じながら、私は己の生涯を振り返った。

 大丈夫だ、悔いはない。

 私が頷くと、女はゆっくり私に口付けた。体温も重みも感触もない、その唇が私の生命を吸い出すのを、最期の微睡の中で感じた。

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