クリスマスホーリー

 大好きな先輩とクリスマスに会う約束を取り付けたので、私は幸せであった。

「新しい宗教を立ち上げるから、入信しない?」

 部活動の勧誘と同じくらい軽いノリで誘われ、私は二つ返事で承諾した。その宗教の結成日が、クリスマス……十二月二十五日なのだ。現在、世界で広く信仰されるキリスト教の最大の祝祭日にぶつけることで宗教界にインパクトを与え、パラダイムシフトを引き起こすのだとか何とか。

「私はねえ、愛だとか神秘だとか、そういうのは説きませんよ。現世で幸せになるための教えを説きますよ」

 先輩は自信ありげに胸を張る。

「現世で幸せになるためには、まずしっかり働くことです。そして質の良い食事と睡眠をとり、適度に運動をする。これが健康に良いことは科学が証明しています」

 分かりきったことを、さも有難い教義の如く説明する先輩は、とても可愛い。「そうですね、それならどこからも文句は出ません。先輩の教えに隙はありません」と頷いて見せると、先輩はますます得意げに顎を上げる。

「まずは手始めに、この大学の生徒の一割程度を入信させます。活動としては、そうですね、年に数度、料理研究家でも招いて講習会を行うとか、毎朝皆で郊外をジョギングするとか、よく眠るためにリラックス出来る入浴剤を作るとか……あと、それ以外にもネット上で集会を行うのも良いですね」

 先輩と料理を作り、先輩とジョギングをし、先輩と入浴剤を作り、先輩とネット上でお喋りする……、想像するだけでワクワクしてくる話に私が目を輝かせると、先輩は嬉しそうに微笑んだ。

「それで、この宗教で信仰する神は、どんな神なんですか?」

「それは、神だよ。神としか言えない。だって神に名前なんて無いだろう」

 先輩は、分かりきったことを言うなとばかりに肩を竦めた。確かにそれはその通りだ。それに実のところ、どんな神を信仰するかなんてどうでも良い。

 私は既に、目の前の先輩のことを盲信しているのだから。

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