パフィオペディルム

 愛と美の女神が湯あみをしている最中に、悪戯好きの小さな天使が、女神のスリッパを持ち出してしまった。綺麗な布でできたそのスリッパが無ければ、女神の足が汚れてしまう。幸い、女神はまだ気がついていないようだったので、お付きの天使達が小さな天使を探しに出掛けた。

 天使達は天界のあらゆる場所を探したが、小さな天使もスリッパも見つけられなかった。そこで仕方なく地上へ降りて、人間でごった返す中を必死で探した。

 彼らがくたびれ果てた頃、人通りの少ない墓地の一角で、ようやく小さな天使が見つかった。小さな天使は、一つの墓の前で丸まって眠っていた。それは嘗て、彼が人間だった時の母親の墓だった。彼が天界で見つけた美しいもの、きらびやかなものが、その墓の前に並んで置かれていた。その中に、女神のスリッパもあった。鮮やかな夕陽に、小さな天使の目元が光った。

 天使達は相談した。そうして墓地に生えていた、目の覚めるような色合いの大きな花を二輪摘み、女神のもとへ戻って行った。

 女神は新しい花のスリッパをいたく気に入り、その夜はずっとご機嫌だったということだ。

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