ピラカンサ
「好き」と「大好き」の間には、途方もなく深く長い隔たりがある。さらに「愛する」なんて段階に達するためには、恐らく三度ほど解脱してみないといけないのではないだろうか。何かを好きになるのは簡単だけれども、更にそれを好きになる才能が、私には欠けている。
「それってさ、つまり防衛な訳よ」
知った風な口をきく従兄弟が、コタツの中で私の足を蹴った。
「もっと好きになって、それが報われないとなると傷つくから、自分で勝手に予防線を張っちゃってるんだよ」
「そういうもんなのかな」
私はもっと根の深い問題だと思うのだけれども。
「そうそう。でも大丈夫だよ。人ってのは君が考えてるより余程、単純だから。好きになってもらえたら好きになるもんなんだよ」
魚と水の喩えは私でも知っている。でも、それを言うのがよりによってこの従兄弟だから、信用が置けない。
「だからさ、君はもっと軽率に、人を大好きになるべきなんだよ。手始めに、この僕からとかさ」
「無理」
好きになってもらえたら好きになる、という単純さが人間の持ち味ならば、私はきっと人間ではないのだ。目の前で煩い、この従兄弟が生き証人だ。
決して埋められない溝は、多分この世にある。それは私たちの身体のぐるりに涙の跡のように刻まれて、きっと永遠に交わることもないのだろう。
それでも、一緒にいることは出来る。コタツの中で、足を蹴り返すことも。
従兄弟が大袈裟に叫び声を上げて、私たちは子どものように笑い合った。
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