ハツコイソウ

 うちのクラスには、オーストラリアからの留学生がいる。綺麗な金髪と青い目の持ち主で、とてつもなく可愛い。日本文化を学びに来た彼女は何事にも一生懸命で、まだたどたどしい日本語を、積極的に話そうと努力している。その一環なのか、ここ一週間ほどはクラス一の秀才と言われるクラス委員長と毎日残って、一緒に勉強している。どうやら文字の練習をしているらしい。委員長、恨めし……じゃなかった、あんなに毎日付き合ってあげて、偉い奴だ。

 でも、彼女と最初に仲良くなったのは、隣の席の俺なんだけど、と思う。学校の案内をしたり、街のあれこれについて教えてあげたのも俺だ。彼女だってこの間まで、何かと言うと俺にくっついてきて、楽しそうに笑っていたのに。

 彼女が多くのことを学ぶ姿は素晴らしいと思うのに、その相手が自分じゃないということが辛い。別に、彼女は俺と話すために留学している訳じゃないのに。自分の器の小ささが嫌になる。

 放課のチャイムが鳴った。どうせ彼女はまた委員長と勉強だろう。邪魔をしても悪いから、と帰り支度を始めた時、彼女に声をかけられた。

「あ、あのー……手紙書きました、読んでください!」

 叫ぶように言い、俺の手の中に封筒を突っ込んで、彼女は逃げるように教室を出て行ってしまった。困惑しながら封筒を開け、可愛らしい便箋に目を落とす。

『いつもありがとう。大女子きです』

 クスッと笑いがこぼれた。きっと委員長に最終チェックを頼まなかったのだ。

 明日会ったら、正しい字を教えてあげよう。

 軽くなった心で手紙の返事を考えながら、俺も教室を後にした。

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