ユリオプスデージー

「ほら、デカ目加工って流行ってたじゃないすか」

 へらへらした口調で話しながら取材相手の男が見せてきたスマホ画面には、女子三人が並ぶ写真が表示されている。いや、これはプリクラというやつか。確かに、女子達は一様に目が大きく加工されているようだ。とは言え、常識の範囲を逸脱した大きさにはなっていない。元からこういう顔だと言われれば納得してしまいそうな、自然な加工だ。

「この辺りまでは、このくらいナチュラルな方がウケが良かったみたいなんすよ。でも……」

 次に提示された画面には、明らかに大きすぎる目の、女子と男子が表示されていた。昔の少女漫画のような大きさで、一瞬ぎょっとしてしまうくらいだ。

「まあ、最初はウケ狙いで始めたみたいなんすけど……ほら、昔から美白だのダイエットだのって、やり過ぎな方がもてはやされるじゃないすか。だから段々、これが『カワイイ』ってことになってきて」

 男はスマホをジャケットの内ポケットに仕舞った。代わりに取り出したのは口の広い小瓶。中には握り拳大の、球状の物が入っている。私の、今回の取材目的だ。

「そう、これがワタシの考えた新しい美容ビジネス……デカ目整形。昔からよくある、目蓋を切り貼りするなんてやつじゃありません。新しい目を移植するんですからね」

 小瓶の中から、誰のものでもない眼球がこちらを見つめている。普段、眼球の大きさなど気にしたことはないが……恐らくこれは、常人の二倍ほどの大きさがあるだろう。

「再生医療が発達した今だからこそ出来たビジネスですけどね。視神経を接続するのは大変でしたよ。……もっとも、今となっては誰も、視神経接続のことなんて問題にしないんすけどね」

 含み笑いをしながら、男は窓の外に目をやる。そちらを見ずとも、彼の言いたいことは分かった。窓の外には、行き交う人の波がある。更によく見れば、彼らの露出した肌に、ぼこぼこと突出した眼球を探すことが出来るだろう。

「本物の目、それも見えない目をアクセサリーにしようってんですから、流行りってのは分からんもんっす。まあ、お陰様でがっぽがぽなんすけどね」

 男は五つの目で笑った。

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