6.囲う食卓

「清香いるなら手伝って。」下の階から彼女の母親の声が響く。

「わかった。」参考書を閉じながら返事をする。下に降りると母は買い物袋を広げていた。母は近所のスーパーでパートとして働いている。そのためパート終わりにそのまま買い物をしてくるのだ。清香より背が低く中肉中背の背格好。手足が長く細身な清香。髪は真っ黒なストレートで余り見た目が似ているとは思えなかった。癖っ毛の髪から白髪が覗く。目尻のシワからも歳を感じさせる。

「今日はめんどくさいからお惣菜でいい?」

「いいよ。」と笑顔で答える。

「私が準備しとくからお母さんは着替えてきなよ。」 

「ありがとう。」そう言って母はキッチンを出た。トンカツをお皿に出し、電子レンジにセットする。冷蔵庫からキャベツを取り出して千切りにする。ふと先程の母を思い浮かべる。幼い頃からあまり両親には似ていないと言われていた。清香はくっきりな二重で黒目も大きい。右の目元にはホクロがありより一層魅力的な顔にみせた。鼻筋も通っていてパッと見目立つ顔をしていた。それに対し両親は二人とも細目で鼻も低い。三つ離れた弟もそっくりな顔をしていた。友達の親からも「清香ちゃんだけ似てないね」と言われていた。そうすると決まって母は「私の姉に似てるのよ。でもこんなに可愛い子が生まれるなんて神様からの贈り物ね。」と言っていた。

 そんなことを思い出しながら千切りを終える。「ただいま。」と玄関から弟の明の声が聞こえる。声の主はそのまま風呂場に向かった。シャワーの音を聞きながら、簡単に味噌汁を作る。豆腐とねぎだけの質素なものだ。お茶碗を三つ出しご飯をよそっていると母が戻ってきた。

「ありがとう。後はやるから机のとこ綺麗にしといて。」そう言われて残りを母に託す。箸とコップをそれぞれ三つ取り出しコの字型に並べる。

「お腹空いたわ。」風呂場から弟が出てきた。身体から湯気を発した少年は清香より少しばかり背が高い。中学二年生の彼は成長期で育ちざかりのようだった。テニス部に所属しており、ラケットの持つ右手だけ異様に筋肉がついていた。弟はそのまま席についた。

 母がトンカツとキャベツが乗ったお皿を机に置いた。清香も運ぶのを手伝った。

「いただきます。」食事が置かれた瞬間、弟はすぐに食べ出した。遅れて清香と母も席につきご飯を食べた。

 今日の学校で何があったか、パートの〇〇さんが再婚するだとか、そんな会話をしながら箸を進める。

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