酷くも愛おしい君へ

宵闇(ヨイヤミ)

第1話

高校三年生の春のある日、私は1人の人に好意を寄せていた。そしてそれは夏に実った。

だかそれが幸か不幸かは今でも分からない。

友達が最近“恋は盲目でガチ恋は失明”と言っていたのだが、それは事実だと私は思った。恋とは、相手の良い部分を見ている。悪い所があってもそこすらいいと思ってしまう。ガチ恋になるともう手のつけようがない。相手の長所も短所も好いてしまう。例えその人が人としてどうなのか、と周りから言われるような人物だとしても嫌いになれないのだ。

実際に私がそうであった。

たったの2週間半程だった。その短くも長い期間、私は普段よりは幸せだと感じた。声が聞きたくなった時に「通話がしたい」というとかけてくれる。「登校日の日空いてる?」と聞くと、「空いているから会おう」と言ってくれた。勉強も出来る人だったので色々教えてもらったりもした。私にとっては本当に理想だった。高身長で勉強の出来る人、それが私がタイプを聞かれた時に答えることだったのだ。

しかしどうだ。別れたあと普通にしていて欲しくて本人にそれを言うと今まで通り接してきてくれた。私も普段通りにしていた。

そのすぐ後に彼は本命の人と付き合った。本当ならこれは祝福する事だ。そのはずだ。

しかし、私にはそれが出来ない。しようと思っても、それは言葉だけで中身が空なのだ。

別れて未練がないかと言われればある。今も好きかと言われると、友達としてはとても好きだと答える。だが恋愛面での好きかどうかを問われた場合私はなんと答えればいいのだろうか。

付き合っていた時との距離感があまり変わらないのだ。私も人との距離感が近い方だと思うからそれは別にいい。だがそうだとしても、こちらに嫉妬して欲しいかのようなことを言ってきたり、そういう事をしてきたりと、彼が何を考えているのか私には理解が出来なかった。

そんなだから私は彼の事を今どう思っているのかわからない状況下にある。

普通に考えれば、そんな奴の事は早く忘れた方がいいだの、女の敵か?というような意見が飛び交うだろう。もしこれは私の友達の話なら同じことを言うと、自分でも思う。でもそれが出来ないのだ。きっと私は失明しているのだろう。だから嫌いになれない。彼を忘れてしまうほど何かに熱中したらいい、他の恋を探せば忘れられると、そう自分の中で分かってはいる。けれどもそれが出来ない。集中するものは幾つかある。だが熱中してやってしまったらきっと現実を見なくなってしまう。誰かに恋をしようとしても、その時私は彼の事を思い出し比べてしまうだろう。そんなことを考えていると結局何も出来ないのだ。早く忘れなければならないと、そんなこと自分でも十分理解しているつもりだ。しかしそれは簡単なことでは無い。言葉で言うだけ、自分の中で思うだけならそれは簡単だろう。実行するのは難しいことなんだ。

私は、これからも彼の恋愛相談を受けるだろう。そしてその度に不幸を願ってしまうかもしれない。もしこの作品が彼に届いたなら、と思った。だがどうか、頼むから届かないで欲しい。私が思った事を何も知らずにそのままの君でいて欲しいと思うから。


これは私の身につい最近起きた事実であり、これからも続くだろう。

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酷くも愛おしい君へ 宵闇(ヨイヤミ) @zero1121

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