第28話 花火
【あやつが戻らぬと思って探しておったが、ここにいたのか小僧……っ! ようやく見つけたぞ!!】
とっぷりと日が暮れ、辺りはもう真っ暗だった。
この時間帯のビョードーは強い、と小さなビョードーは言っていたが、リュウはあえてこの暗い時間を狙っていた。
「待っていたぞ、ビョードー!」
【ふっ、あたしを待っていただと? とうとう諦めて普通になる決心でもできたのか?】
「違う! オレはビョードーに友達を作るためにここにいる!」
【何? 友達だと……? 笑わせてくれる……。あたしには友達なんてもの必要ない! あたしにはこの普通の世界さえあればいいんだ!】
クワっと目を見開き、ビョードーが
リュウはとても恐かったが、グッと歯を食い縛り、こぶしを握りしめながら、仁王立ちで真っ直ぐビョードーを見つめた。
「それは違うんではないか?」
【お前は捨てたはずの……っ! 部屋から出られないようにしておいたはずなのに、なぜここに!? ……小僧、お前の仕業か!!】
リュウのポケットから小さなビョードーが飛び出すと、リュウと会ったときと同じくらいの大きさに戻る。
小さなビョードーを見て、ギョロっと鋭い目つきでリュウを睨むビョードー。
あまりの威圧感に
「リュウじゃない、アタシが望んだんだ」
【何? 切り捨てた感情が何を望むというのだ】
「もう一度お主の元に戻りたい……いや、元は同じものだったとしても、今は別のものとしてビョードーと友人になりたいのじゃ」
【捨てた感情があたしと友達に? 笑わせるな! そんなこと、するはずがないだろう! いらないから切り捨てたというのに、それをまた拾うだと!? ありえぬ! 絶対にありえぬ……っ!】
今にもこちらを襲ってきそうなビョードーに対し、リュウは逃げることもせずに立ち向かうように立ちはだかった。
【どけ、小僧! ……なんだ、今すぐにでも普通になりたいか? いいだろう、だったら望み通り普通にしてやる!!】
ビョードーが手を前に出したときだった。
すぐにリュウが「今だ!!」と叫ぶ。
すると、ヒナとヨシが空から飛び出し、ヨシがビョードーに向かってビュン! と魔法を飛ばした。
するとビョードーの身体は、魔法を使う前にヨシの魔法によって拘束されるのだった。
【っく! 何をする……っ!! お主、寝返ったのか!?】
ビョードーがジタバタと暴れ出す。
けれどビョードーがヨシに与えた魔法は強力で、そう簡単には解けるものではなかった。
「寝返ったとかそういうんじゃない! ボクは正直になるって決めたんだ!」
【正直? 正直になって何になる! ただ自分が傷つくだけじゃないか!】
「それは違うよ! 嫉妬とか妬みとかそういう気持ちが全くなくなったわけじゃないけど、悪いところも全部受け止めてくれる友達がいることを知った! ビョードーさまだって、ここに全部受け止めてくれる人がいるじゃないか!」
【違う、違う、違う……! あたしはそいつのせいで、こんな風になってしまったんだ! 全部こいつが悪いんだ!!】
「それは違うよ! 人のせいにしてはダメだ! ボクもそうだったけど、自分で勝手に難しく考えて、色々決めつけて、自分で悪いほう悪いほうに考えていた! 誰のせいでもない、自分のせいだったんだ!」
【黙れ、黙れ、黙れ、黙れ……っ! お前にあたしの何がわかる!? あたしがどれほどつらかったか、苦しかったか……わかるはずがないだろう!??】
それはビョードーの悲痛な叫びだった。
誰にも言えずに抱え込んだ本音だった。
本当は苦しくつらかったが、助けを求めることができずに、ただ1人で頑張り続けていたビョードーの本当の気持ちだった。
「アタシはわかるよ」
ぽつりと小さなビョードーが溢す。
その言葉にビョードーはハッとしたように小さなビョードーを見つめた。
「アタシはずっとそばで見ていたから、ビョードーが苦しかったのもわかるし、つらかったのもわかる。寄り添ってあげられるんじゃ!! だから、アタシを拒絶しないでほしい!」
小さなビョードーはそう言うと、とてつもなく大きな魔法を集約したものを空高く打ち上げる。
それは、小さなビョードーの持つ魔力の全て結集させたものだった。
パーーーーーーーン!!
【これ、は……】
ビョードーの視線の先には、夜空に浮かぶ大輪の花が映っていた。
初めてビョードーがこの魔法を作ったときと同じくらい綺麗な花火。
これが、リュウの考えた作戦だった。
「魔法の花火じゃ。初めてこの魔法を作ったとき、とても嬉しかったのをアタシは今でも覚えている」
【あぁ、そうだ。なんて……美しいのかと……。こんなものが世界に存在するのかと……】
「そうじゃ。この美しい花火の魔法が完成したとき、最初はこれでこの世界の人々を楽しませるようとしてたのではなかったか?」
【……あぁ、あぁ……っ、そうだった、そうだ。あたしは……ひとりぼっちは嫌で、普通じゃないあたしと仲良くしてくれる友達がほしくて……】
ビョードーは当時のことを思い出したのか、ぼたぼたと両目から涙を溢れさせる。
「自分で自分を縛りすぎたのだ。普通であろうとせずに、普通じゃないことを認めればよかった。そうではないか?」
【あたしは、あたしは……っ】
「なぁ、アタシもまだ友達が少ないんだ。今ならここの3人も友達になってくれるそうじゃぞ? 悪い話ではないと思うが、なぁ?」
小さなビョードーがリュウとヒナとヨシに向かって言う。
すると3人はそれぞれ頷いた。
「うん! まぁ、この世界にあんまり長くはいられないとは思うけど」
「リュウくん! 今そう言うこという場面じゃないでしょ!」
「あー、そっか。でも本当、オレは友達になってもいいと思ってるぜ!」
「ボクは、ビョードーさまと似てる部分もあるし、いい友達になれると思うよ!」
「私も!」
リュウとヒナとヨシが友達宣言をすると、ビョードーは驚いた様子で呆然としていた。
【あたしに、友達……】
「そうじゃ。普通じゃないもの同士、仲良くやるのも悪くないとは思わんか? きっとここの住人達もそれを望んでる。……それに、せっかく世界を作ったなら、楽しい世界の方がいいだろう? みんなで仲良く暮らせる世界。少なくともアタシはそう思うがお主はどうじゃ?」
【そう、だな……。あたしも、そう思う。でも今更そんな……】
「いつだってやり直そうと思えばやり直せる。こうして、頼れる友達もいるんだからのう」
リュウやヒナ、ヨシが得意げな表情で笑う。
それを見て、ビョードーは憑き物が落ちたかのように、表情が緩んだ。
その顔を見て、小さなビョードーは静かににっこりと笑った。
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