感情欠如少年に恋愛は難しい
世も末コウセン
第1話恋愛未経験者はフリ方を知らない
世の中「ジェンダーがどうのこうの」、「パートナーシップがどうのこうの」と風潮が変化し出しているが、自身の近くにその人がいたらどうするのだろう?
僕、兎洞一徹(うどういってつ)はアセクシュアル(人のことを好きにならない)である。
モテる者、モテない者この世界で存在する2種類の人間に付け加えられたモテたくない者がこの世に存在しようとしていることを皆さんは学習しただろうか?
これは自身に注目を集めないためにあの手この手で自分を偽り続ける1人の人間の物語である。
「これはy=2x二乗とy=3x +5のグラフの交点を求めるってことだから……」
クラスでそこそこ話しかけやすく、人並みに勉強ができた僕はクラスの家庭教師のような存在だった。男女からの授業の質問は当たり前で、恋愛相談を受けたこともあった。
「宮嶋君に告られたんだけど・・・正直嫌なんだよね。下心丸出しっていうかさ?」
僕は頷きながらある一つの提案をする。
「僕が宮嶋に話をつけておこうか?関係はそう簡単に壊れて良い物じゃないからね」
そう、これが僕の人生相談の対処法。全てに関心を持たない僕はある一定の人間に肩入れしたりしない。だから、僕は全ての物事に中立の立場に立てるのだ。
「マジで?なんで、そこまでしてくれるのさ?」
今回の相談相手は不思議そうに僕を覗き込む。
(答えは簡単さ・・・。信頼は今後の生活でかなり重要になる。今は雑用係でも、「コイツに任せればなんとかなる」という信頼を植え付けてからトコトン利用する。)
僕は本心ではこう思っているがそんなことは口には出さない。
僕は彼女にこう言った。
「僕は、極力クラスメイト同士の関係が悪化して欲しくないだけだよ」
嘘をついた。人生で、人間は嘘を何回つくのだろう?
そう思いながら、僕は彼女に高校入試問題の過去問を解説する。
「ありがとう。一徹君の説明はわかりやすいね。今度、家に来て教えてよ」
彼女は僕を家に誘った。
「嫌だよ」
僕はキッパリと彼女の提案を斬り裂く。
「なんで?」
少し悲しそうな表情を浮かべる彼女は下を見る。
「宮嶋にバレたらどうするんだよ?僕はアイツに誤解をされてしまう。それを避けるだけだよ。本当にやばい状況が続いたら家まで行くよ」
僕はそう言ってカバンからプリントを出す。
「wardで簡単に作った復習プリントだよ。これを明日僕に渡してね」
僕はそう言って彼女にプリントを渡す。
「本当に変わってるよね。バカな私に君はこんなプリントまで用意してくれて……」
彼女はとても嬉しそうだ。
「あのっ」
「じゃあら僕はここで」
「あっ!ちょっと」
彼女は僕を呼び止める。
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
僕はその言葉を聞いて教室を後にした。
(まずいな。優しくしすぎた。もし、彼女の恋愛意識を僕に向けさしたら・・・。そんなことしたら僕は彼女を確実に傷つける。それは避けないと…)
僕はそう思いながら自転車に乗り込む。
「さてと、帰って勉強だ。まぁ、高校は決まってるんだけど…。」
前期入試で僕は地域の進学校に合格した。
「勉強の前にアイツの解説プリントを、作らないといけないか?よし、作ろう。どうせ暇なんだし」
ボクは自転車を思いっきりこぐ。
吹き抜ける風が頬をかすめ、頬を冷やす。
「寒いな……。帰ったら餅でも食べよう」
そう独り言を呟きながら僕は家に帰宅した。
それから月日は流れ中学の卒業式――。
「無事、皆さん高校に合格していました。良かったです」
担任が涙ぐみながら最後のHRで話す。
「やったー!」
「やっと、解放される」
「何して遊ぶ?」
などなど、気の抜けた会話が教室に響き渡る。
「これが、最後のHRとなりました。皆さんはこれから社会の一員となります。中学で通用していたことが高校では通用しなくなります。ですが、皆さんなら大丈夫です。さあ、大きな声で挨拶してこの学校を旅立ちましょう」
担任は皆を早く立つように促している。
「起立!礼!」
室長の号令でクラスメイトが起立する。
「ありがとうございました。さようなら」
感謝の言葉が教室を埋め尽くす。
僕は男友達と少し写真を撮ってからクラスを後にする。
「よし、帰るか」
僕は教室を出て廊下を歩く。
「一徹君!」
息を切らしながら前に勉強を教えていた彼女が走ってきた。
「ありがとう。本当に助かったよ。一徹君がいなかったら私……」
僕はニコリと笑ってこう言った。
「君の力さ。僕はあくまで助力をしたしただけだよ」
すると彼女は僕の裾を掴む。
「この後、校舎裏に来て」
そこまで言って彼女は走り去った。
「あー。やらかした」
僕はふぅーと息をついていつもよりも遅く歩くことにした。
「どうしたの?こんな所に呼び出しして?」
わかっていた。でも、認めたくなかった。
「一徹君……。私、あなたのことが好き!」
声を高くしてまで、彼女は内に秘めた気持ちを解放した。
「……。」
僕は黙り込む。
彼女は、悪い子じゃない。顔も整っているし、人脈も持っている。だが、彼女の言葉は僕の表皮の部分でこぼれ落ちた。
「ごめん。…僕は君の隣にいていい人間じゃない」
なんとか傷つけないように配慮しながら僕は、彼女の事をフッた。
「なんで?物事には何かしらの理由があるでしょ?それだけ教えて」
「ごめん」
言葉が出なかった。なんでよ、なんでよ、リピートする彼女。
僕は息を大きく吸ってこう言い放った。
「煩い!人をフルことがそんなにしたらダメなことなのか?だったら、このご時世は片思いしたもん勝ちじゃないか!甘ったれないことだね。正直、君に優しくしたのは学校の状況を鮮明に把握するためだ!僕は君を道具としか見ていないしそれ以上の印象を抱いたこともない!自信が可愛いと思って、彼氏がいる私ってヤバイとか思ってるんなら、さっさと立ち去ってくれ。フラれたらそこで終わり!」
僕はふぅーと深呼吸を入れる。
彼女の足はガクガクと震えながらも確実に僕から離れていっていた。
「それでいいんだ。僕は君の一途期の居場所さ」
そこまで言って僕は家に帰宅する準備を整えた。
彼女の涙を見るととても悪いことをしたと思う。だが、僕は人のことを好きにならない。
アニメや小説のラブコメのように簡単に恋愛と言う物は成立しない。
僕はそう思いながら自転車にまたがる。
春の生暖かい風は花粉を運ぶ。
「ハクション!」
くしゃみをした僕は鼻をすすりながら帰宅した。
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