美人姉妹と蒙古の使節団

蒙古の使節団来訪

―――文永（ぶんえい）６年　景色（けしき）は白く包（つつ）まれた寒（さむ）い冬至（とうじ）の月。

　ここは、北方（ほっぽう）の玄界灘（げんかいなだ）にある島（しま）、対馬（つしま）領（りょう）。

この領地（りょうち）には、ある姉妹（しまい）が居（い）た。

　その姉妹（しまい）は村の中では美人（びじん）姉妹（しまい）と言（い）われていた。

　　農民（のうみん）の出ながら整（ととの）った顔（かお）。

　　妖艶（ようえん）な体（からだ）つき。

　　人の好（よ）さそうな性格（せいかく）。

　何（なに）を取（と）っても完璧（かんぺき）に見えた………そう、身分（みぶん）以外（いがい）は。

　ある時（とき）、領主（りょうしゅ）である時宗（じしゅう）は蒙（こうむ）古（いにしえ）の使節（しせつ）団（だん）を大いに歓迎（かんげい）した。

　――しかし幕府（ばくふ）は入国（にゅうこく）を許（ゆる）さなかった為（ため）、一時（いちじ）的（てき）な宿（やど）として我（わ）が領主（りょうしゅ）に滞在（たいざい）することを許（ゆる）してしまった。なぜなら、金銀（きんぎん）財宝（ざいほう）を差し上（さしあ）げると言（い）って、献上（けんじょう）してきたからだ。

　時宗（じしゅう）は満足（まんぞく）だった。ちょっと滞在（たいざい）するだけで金銀（きんぎん）財宝（ざいほう）が私（わたし）の物（もの）になる。これぐらいならいいだろう、とおもって。

　すると、蒙（こうむ）古（いにしえ）の使節（しせつ）団（だん）は、領土（りょうど）を見てみたいと申し出（もうしで）てきた。あまりうろうろして欲（ほ）しくなかったが、財宝（ざいほう）をまた差し出（さしだ）してもらえるかもしれない。

　「大したものがないから見る価値（かち）はないぞ」

と言（い）ったものの、是非（ぜひ）にと言（い）われたので渋々（しぶしぶ）ながら了承（りょうしょう）した。

　こうして、噂（うわさ）の美人（びじん）姉妹（しまい）がいるこの村にやってきたのだ。

　そうこうしているうちに、使節（しせつ）団（だん）の一人が、姉妹（しまい）を発見（はっけん）してしまった。そして、この姉妹（しまい）を気に入ってしまったのだ。こいつらは図々（ずうずう）しくも、是非（ぜひ）ともこの娘（むすめ）たちを我が国（わがくに）に迎（むか）えたいと申し出（もうしで）てきた。

　しかし、時宗（じしゅう）は認（みと）めなかった。

　時宗（じしゅう）も、こんな農村（のうそん）にこんな美人（びじん）姉妹（しまい）がいることを知（し）らなかった。

　時宗（じしゅう）も気に入ってしまったのだ。使節（しせつ）団（だん）が帰国（きこく）したのち、改（あらた）めて我（わ）が城（しろ）に迎（むか）えるつもりだったのだ。

――その日の深夜（しんや）

　使節（しせつ）団（だん）の一人が牛（うし）も眠（ねむ）る丑三（うしみ）つ時（じ）に美人（びじん）姉妹（しまい）を滞在（たいざい）中の船団（せんだん）に招（まね）いていた。

　実（じつ）は、こっそりと美人（びじん）姉妹（しまい）に声（こえ）をかけていたのだった。

　――翌朝（よくあさ）

　滞在（たいざい）可能（かのう）期間（きかん）が過（す）ぎたので、何（なに）食（く）わぬ顔（かお）でそのまま使節（しせつ）団（だん）は去（さ）っていった。

　時宗（じしゅう）はやっと我（わ）が城（しろ）に迎え入（むかえい）れると思（おも）ったので、使者（ししゃ）を出す事（こと）にしたのだ。

　――しかし、時（とき）はすでに遅（おそ）しすでに美人（びじん）姉妹（しまい）はいなくなっていた。

　村では居（い）なくなった翌日（よくじつ）から大騒（おおさわ）ぎ。

　聞き取（ききと）り調査（ちょうさ）の結果（けっか）、使節（しせつ）団（だん）の一人が会話（かいわ）してるところを聞（き）いた村人が居（い）たのだ。村人は、内容（ないよう）もうる覚（おぼ）えでありながら聞（き）いていた。なんでも船団（せんだん）の中で歓迎（かんげい）会（かい）をやるので来（き）てほしいとの事（こと）。

　時宗（じしゅう）は大層（たいそう）怒（おこ）った。

　しかし、事（こと）を起（お）こせば幕府（ばくふ）の命令（めいれい）を反古（ほご）にして使節（しせつ）団（だん）を領地（りょうち）に入れたことがばれてしまう。噂（うわさ）が流（なが）れたらもしかすると、領地（りょうち）に居（い）れたのがばれてしまう。

　時宗（じしゅう）は考（かんが）えた。

　「そうじゃ！もともとも年貢（ねんぐ）の遅延（ちえん）が目立っていた村だ、これを理由（りゆう）に焼き討（やきう）ちにしてしまえ」と。

　そして村は、言（い）われない理由（りゆう）で焼き討（やきう）ちにあい、村民（そんみん）は全員（ぜんいん）殺（ころ）されたのだ。

　これを聞（き）いた時宗（じしゅう）は安心（あんしん）していた。

　――しかし、秋口（あきぐち）に蒙（こうむ）古（いにしえ）の使節（しせつ）団（だん）が再（ふたた）び来訪（らいほう）してしまった。

　これ以上（いじょう）幕府（ばくふ）ににらまれては、たまらん！

　そうおもった時宗（じしゅう）は、上陸（じょうりく）の許可（きょか）を出さなかった。使者（ししゃ）の言い分（いいぶん）によれば、住民（じゅうみん）を返（かえ）したい、と。

　やはり美人（びじん）姉妹（しまい）は連れ去（つれさ）られていたのだ。だが、今年（ことし）の冬至（とうじ）の月に村は焼き払（やきはら）われている。見せるわけにはいかなかった。

　使者（ししゃ）には、美人（びじん）姉妹（しまい）が住（す）んでいた反乱（はんらん）に巻き込（まきこ）まれて滅（ほろ）んだと伝（つた）えた。そのまま、蒙（こうむ）古（いにしえ）の使節（しせつ）団（だん）は去（さ）っていった。

　―――こうして、蒙（こうむ）古（いにしえ）の使節（しせつ）団（だん）は再（ふたた）び対馬（つしま）領（りょう）を訪（おとず）れることは無（な）かったという。