クロニクルゲーム
来栖 侑妃
残暑
高校二年生の夏休みはきっと人生で一番楽しくて、青い春、なんて言い方をされて。大人たちが作り上げた幻想の中を、そうやすやすと泳いでいくほど私は馬鹿ではない。他の人は知らないけれど。来週から二学期が始まる八月下旬。まだまだ太陽は仕事をしなくてはいけないようで、コンクリートの道路に燦々と日光を降り注いでいる。木陰に隠れて様子をうかがっているとおしゃれなカフェからラフな格好をした”先生”が出てきた。隣に並ぶ女の人は背が高く、スラリとしたモデルのような人だった。つばの広い帽子をかぶっていて顔はよく見えない。”先生”が浮気しているなんて思いたくないけど、笑いながら腕を組んでいる二人はカップルにしか見えないのが妙に悔しい。「馬鹿らしい。帰ろ。」一人で呟いて立ち上がると、太陽の光が反射して視界が真っ黒くなった。しばらく目頭を押さえながら耐えて、視界に色が戻ってきてから歩き出す。なんだか少し消化しきれない気持ちを先ほどのカフェで高校生には少し高いドリンクを注文することで置いてくることにした。家に帰ってベッドにダイブする。携帯を手に取り写真のフォルダをあけると幸せそうに笑う私と”先生”が画面の向こう側でおでこをつきあわせていた。つい三日前の写真だ。いつの間にか日が傾いてきていて、窓から入り込む風も幾分か涼しくなっているように感じた。階段の下からいい香りがしてきて、間もなく母親から声がかかった。ご飯を食べて風呂に入って歯を磨いて、携帯にきていた”先生”からのメッセージに気づかずに、私は深い眠りについた。
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