伏線回収の時間だコラァ! さっさと出せボケがーー!

ちびまるフォイ

使わないくせに紙袋を溜めちゃう心理

ドンドン!


「伏線回収業者だ! この小説の中にいるのはわかってる!

 さっさとここを開けろ!」


あまりの圧にビビって扉を開けたのが失敗だった。


「やっと開けたか。貴様、未回収の伏線を滞納しているな?」


「あんた誰だよ」


「私はなにを隠そう伏線回収業者だ」


「聞いたこともない」

「だろうな」


業者はうんうんと頷く。


「まあ、そんなことより伏線を滞納しているのはわかってるんだ。

 さっさと伏線を出せ。回収する」


「はあ!? いきなり現れて何言ってるんだ!

 そんなことできるわけないだろ!」


「できるわけない? それじゃ伏線を回収する予定があるのか?」


「今は……まだない。でも、きっと後で読み返したときに

 "これがあのときの〇〇だったのかーー!!"って言わせるんだ」


「それはいつ?」

「だから決まってないって……」


「いつかという日は来ないんだよ! 回収するぞオラァ!」


「ちょっと勝手に小説の中に入らないでください!」


業者は土足で小説の中に入るとあらゆる伏線を探す。


「なんだこの謎の人物は。3巻に黒幕的な存在で出たのに、

 そのあとなんも音沙汰がないじゃないか」


「それは……」


「さては伏線回収を忘れているな。

 謎の人物として伏線予約したものの、登場タイミングを失ったのだな!」


「ち、ちがう! それは……えっと、その……。

 あ……新しいシリーズ、最終戦争編のキーマンにする予定なんだ!」


「それじゃ、この最初の方に出てきた謎のアイテムはなんだ!

 繰り返し大いなる遺産として語られていたにも関わらず

 今となってはもう誰も触れていないじゃないか!」


「そのアイテムは……」


「さては、巻数が増えるに連れて強くなりすぎて

 今さら昔水準で価値のあるとされたアイテムを出しづらいんだな!

 ようし、この伏線はこっちで回収する!」


「待てよ! その伏線はあとで回収する予定なんだ!

 読者もきっとこのアイテム名の再登場を心待ちにしている!」


「そう言っていつも回収しないのは知っている!」

「なんで知ってるんだよ!」

「回収業者なめんな!」


「主人公出生の謎は!?」

「あとで回収するから!」


「この世界を襲った災厄の解説は!?」

「新シリーズで使う予定!」


「このお菓子の空き箱は!?」

「いつか使うときに備えて取って置いてるんだ!」


伏線回収業者があれもこれもと伏線を見つけては

作者がいつか使ういつか使うと言うので作業は進まなかった。


回収業者はしびれを切らして言い放った。


「これじゃどれも伏線回収できないぞ!」


「だから、あんたが無理やり回収しなくても

 もともとこっちでそのうち回収する予定なんだよ!」


「それはいつだ? 人気がなくなったあとか?

 ためこんだ伏線を一気に回収するアテもないくせに

 伏線ばかり増やすことがどれだけの負債になるのか知らないのか!」


「謎があったほうが先を期待させてくれるだろ!?」


「もういい! こうなったらすべてこちらで回収する!」


「ええ!?」


「明日、ここへ伏線回収トラックが突っ込む。

 そうして散らばっている伏線をまとめて回収する。

 抵抗しても無駄だ。もはやお前の意思などどうでもいい」


「そんな無茶苦茶な! お前こそ回収するだけしておいて

 それをちゃんと紐付ける用意はあるのか!?」


「どうしてそんなことをお前に話す必要がある!」

「あこいつ絶対考えてない!」


「とにかく伏線回収は決定事項だ!」


それだけ吐き捨てると伏線回収業者は去っていってった。


「どうしよう……明日までに伏線を回収するなんて無理だ……」


話の流れで自然に伏線回収の方へと誘導するのが自然な回収。

でも強引に回収するのはどうしても解説臭くなってしまう。


『主人公よ、お前は実は悪い魔王の息子で

 3巻で出てきた謎の人物はお前の双子の兄で、

 大いなる遺産のアイテムはその兄が残した手がかりで

 お前を強くし、そして自分の元へいざなう作戦だったんだよ!』


と、書いてみたが「おお!」というよりも「お、おお……」と

伏線回収される気持ちよさより情報量が多すぎて頭が追いつかない。


「んああああ! ダメだ!

 伏線回収するのは時間が足りない!」


けれどここでモタモタしていても、明日には伏線回収トラックがやってくる。

伏線を回収するのが自分か業者かで変わるだけで、雑に回収されるのは同じ。


「ち、ちくしょう! 雑に伏線回収されてたまるか!

 俺は伏線をちりばめた緻密な作品を作れる人間だと思われたいんだーー!!!」


作者は荷物と伏線をまとめて飛び出した。

業者が雑に伏線回収して小説を荒らされるくらいなら逃げたほうがマシだ。


「はぁっ……はぁっ……あんな意味わからない業者に

 俺の伏線を回収されてたまるか……!」


このまま伏線回収できなくても熱心なファンが

「実はこうだったんじゃないか」と考察してくれるはず。

もはやその考察は作者も業者をもしのぐものになって、

その考察を読んだ人が「この作品はすごい」と思ってくれる。


「そうだ……俺は伏線を使いこなせる男なんだ……あれ!?」


抱えている伏線を見て驚いた。

みるみる伏線が腐り始めていた。


「これはいったいなにが!? どうして伏線がダメになって……」


慌てた作者だったがその原因は自分でもすぐにわかった。


あまりに時間を経た伏線は賞味期限を過ぎてしまい

どんどん忘れ去られて腐ってしまうのだった。


1巻の表紙がどうだったとかを最終巻で解説されても

そんなのを覚えている人はごく限られている。

まして人気作品でもないとその数はますます減ってしまう。


「これじゃ回収したところで何の価値もないぞ……。

 かといって急いで回収することなんてできないし。

 ああ、ちくしょう! どこかに鮮度のある伏線ってないのか!?」


作者は頭を悩ませた。

使えそうな伏線をまとめて手に入れたいものの、

もはや自分の実力と現在の作品の進行状況では伏線を作ることは出来ない。


どうにか使える伏線をまとめて手に入れる方法はないか。


そして、作者は決断した。






「オラァ! 伏線回収業者だ!

 貴様が溜め込んでる未回収の伏線を出せコラーー!!」

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