第5話 美少女と二人で妖しい夜!
彼女の質問に答えるのことを一瞬躊躇ったのは、俺にはまだ少し常識が残っていたからだろう。未成年はお酒を飲んではいけない。それは常識だ。しかしながら、胡桃さんは淡々とそれを壊そうと誘ってきた。
――いつもの胡桃さんじゃない。
別に、未成年が自宅で酒を飲むなんて、バレなければそこまで咎められることでは無い。しかしながら、そういったバレなければいいだろう、という考えでルールに背くと言う行為を嫌うのが、古賀胡桃という少女なのだ。
けれど彼女は言った。酒を飲もう、と。常識なんてどうでもいいと言った風に。
それはまるで狂っている俺のようで……そうか、そういうことか。
俺はこの時初めて気付いた。むしろどうして今まで気付いていなかったのか。
――そもそも、自殺しようとした少女が、狂っていないわけが無いのだ。
つまり端的に言うと、胡桃さんは
「よしっ、それじゃあ飲もう! ちなみに俺も酒を飲むのは初めてだよ!」
が、それとこれとは別の話だ。酒飲みたい。胡桃さんと一緒にお酒を飲みたい。より具体的には酔った胡桃さんを見てみたい! ……他意はないよ?
「……ほんと?」
「そりゃあもう、善良な市民代表と言っても過言では無い男子高校生が俺ですよ? 極悪非道飲酒なんて考えたことも無い!」
「嘘くさいなぁ……」
「ほんとほんと、飲んだこと無いってのはマジ!」
「……それじゃあさ、こうやって飲もうって誘ってる私に引いてたりする?」
不安げな瞳を向けてくる胡桃さん。今すぐに抱きしめたいけれど、我慢してその不安を吹き飛ばす。笑顔になって欲しい。不安な顔は、君には似合わないのだから。
「まさか! 胡桃さんの初めてをいただけて幸いに思ってるよ。お酒を飲んだ後はらんでぶーと相場が決まってるからね。……と言うわけで乾杯しよう! すぐにしよう!」
「へ、変態っ! しないからね!? 酔っ払ってもしないから!」
「ふふふっ、それはその時考えるとしようじゃないか」
「うわ、今の笑い方は本当に気持ち悪かった。さすがはきっちーくん」
「俺をその名で呼ばないで!」
胡桃さんは迷った結果、ストロングな酎ハイを手に取り、俺は缶ビールを選択。二人同時にプルタブを開けて、缶をぶつけ合った。
「乾杯!」
「はぁ、乾杯。悪いけど私、たぶん酔わないから」
☆
「あ~、もう嫌ぁああ~。なんで私が虐められなきゃならないのぉ!!」
酒を飲み始めてしばらく。窓の外が暗くなる。何時だろうかと時計を見たら長針と短針が合計四本に見えた。
俺は時計から視線をそらし、酒を片手にくだを巻く胡桃さんを見る。髪は乱れ、頬は上気し、その距離感は熱を感じるほど。
「本当だよ! 何で胡桃さんが虐められるんだ! 腹立たしい!」
「うん、きっちーくんはよく分かってる! さすがすとぉかぁー」
「ストーカーじゃ無い! 愛だ!」
「愛? ……私のこと好きぃ?」
あざとく唇に人差し指を当てて、分かりきったことを尋ねてくる胡桃さん。そんな仕草に俺の心はもうメロメロだ。
「大好きぃぃぃいいいいいっ!」
「あははっ、酒くさっ!」
「胡桃さんも中々にお酒の匂いを醸し出しているよ! くんくん、はぁはぁ」
「んふふ、私の匂いで興奮してるの?」
「はい! めちゃくちゃ興奮してます! だから俺とセックスしようっ!」
「えぇーでもなぁー、うーん」
「え!? 悩んでくれてる!? これはワンチャンあったりするの!?」
「まぁ、私が好きって言うのは伝わるしぃ〜、でも喋るようになって日も浅いしぃ〜、そもそも処女がバレるの恥ずかしいしぃ〜」
「!? し、しししし、処女なの!?」
「すとぉーかぁーの癖に知らなかったのかよぅ」
「知らなかった」
「嬉しい?」
「嬉しい!!」
「ふぅーん」
ニヤニヤした表情で距離を縮めてくる胡桃さん。元々かなり近かったのにそれ以上となると、身体が密着する。って言うか、さっきからずっと手を握られている。指と指を絡ませた
ドキドキしていると、彼女は妖艶に微笑んで、耳元でささやいてくる。
「したい?」
「……! したい! けど、いいの?」
「うーん、そうだなぁ、どうしようかなぁ……。んー、まぁ、助けてくれたしぃ……」
ちらっ、と横目で俺を見た胡桃さんは、もじもじと太ももを擦り合わせてから「よしっ」と意気込んで立ち上がる。急にどうしたのかと思っていると、胡桃さんは俺の太ももの上に向かい合う形で乗ってきた。
「……っ!」
柔らかい太ももの感触に、目の前にある整った顔立ち。思わず生唾を飲み込んでしまう。
「私のこと、好き?」
「大好き」
「世界中の誰よりも?」
「もちろん」
「んふふ……それじゃあ、私の目を見て」
胡桃さんの目を見つめる。とろんと酔いが回った彼女の瞳は煽情的で、今なお俺が理性を保てているのは奇跡と言っても過言ではない。
「好きってじゅっかい言って」
「え?」
「言えないの?」
「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き」
愛をささやくのに羞恥など無い。ためらいも無い。
俺は本心を思いのままに述べ立てて――次の瞬間、俺の口が柔らかい物で塞がれた。それは、胡桃さんの唇で……。突然の出来事に驚いていると、唇を割ってぬるりとした物が口内に侵入してきた。
「……ん、ふぅ、はむ……んぁ、……ぇあ♡」
胡桃さんの鼻息と、吐息と、喘ぎ声が、俺の脳を溶かしに来る。駄目だ、これはとんでもない麻薬だ。
胡桃さんの匂いが俺に移り始めた頃になって、彼女は唇を離す。
「すきって言葉、私好き。だっていっぱい繋げるとキスになるから」
「……っ、く、胡桃さん!」
もう我慢の限界だった。俺は彼女を抱きしめ、今度は自分からキスしようとして――。
「すー。すー。……むにゃむにゃ」
「…………うそ、だろ?」
優しい寝息を立てる胡桃さんを起こすことは躊躇われるし、だからと言って寝ているところを襲う趣味も無い。俺は彼女を愛しているから、愛の契りは両者合意の上がいい。その合意を貰うために俺は彼女に『セックスしよう』と言っている。
胡桃さんを隣に降ろして座らせると、彼女はそのまま俺の肩へと頭をおいた。
甘い、胡桃さんの匂いが鼻腔をくすぐる。先ほどの情景を思い出してしまい、心臓が高鳴る。ぐぅ、だ、駄目だ。恥ずかしい!
「ん……んむぅ……」
「あばばばばっばばばば」
「
「(あばばばっばばばっばばば)」
夜はまだ続く――。
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