変幻探偵カメレオナード 〜対決! 怪人二万面相〜
綾繁 忍
第0話 怪人二万面相登場
「おのれ、怪人二万面相……!」
ラボード警部が忌々しそうに呻く。彼がいるビルの屋上は、大量の警官で埋め尽くされていた。彼が手配した人数の倍の警官がぶつかったり、すり抜けたりして犇いている。そう、すり抜けるのである……本物の警官とホログラムの警官が入り乱れているがために。
怪人二万面相が放った自走式ホログラム投影装置。それらが警官姿の分身達を投影し、現場に存在する警官の人数を水増ししている。ホログラムはあちこち走り回り、場を混乱に陥れている。
「くそ、本物の二万面相はどこだ……!」
『本物、とは一体どのような意味でしょう』
突然、その呻きに合成音声の答えが返ってくる。見れば、右往左往する警官とその虚像の合間を淀みなく歩く一人の警官の後ろ姿があった。
「何っ。あいつ、まさか……」
呆気にとられるラボード警部達を尻目に、その警官は屋上の縁までたどり着くと、振り向きざまに自身の衣服を一気に剥ぎ取った。
夜空を背景に、プリズム状の発光体が突如閃く。警部達が目を凝らすと、そこにいたのは七色のシルクハットとマントに身を包んだ、けばけばしい怪人の姿だった。
怪人が指を鳴らすと、ホログラムが一斉に二万面相自身の姿に切り替わる。屋上は数十人の警官と、数十人の二万面相が混ざり合う混沌とした状況となっていた。
『発明家ジャック・ルディスの人工知能搭載型強化外骨格は確かにいただきました……これは軍事転用されてしまえば恐ろしい結果を招くことは火を見るより明らかです。私のテクノロジー・アート・ミューズィアムの収蔵品として、未来永劫丁重に扱うことを約束しましょう!』
「勝手なことを……! 取り押さえろ!」
我に返ったラボード警部は部下達に指示を飛ばす。二万面相が佇む屋上の縁へ、多数の警官達が殺到する——次の瞬間、二万面相はその身を夜空に放り出した。
「何!?」
慌てて駆け寄るラボード警部。身を乗り出して見下ろすが、そこには誰の姿もない。
どこからともなくプロペラを回すような音が鳴り響いてくる。
顔を上げると、そこにはドローン・ボードの上でスタイリッシュなポーズを決めながら不敵に笑う二万面相の姿があった。
『それではみなさま、ご機嫌よう』
恭しく一礼すると、ドローン・ボードの向きを急速転回し、二万面相は滑るように夜のビル街へ消えていった。
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