後悔麻薬

佐藤 田楽

後悔麻薬

時の流れなんてものはいつまでも流動的で、しかも自由で、それでいて縛り付けてくる。

過去は岩で、未来は空気で、ならば今はなんなのだろうか。

いつも未来ばかりを観ようする者は風が吹けば流され、いつまでもフラフラと地に足がつかない。浮浪者だ。

いつも過去を振り向き続ける物は何があっても次へは進めず、雨が降ればただ濡れるばかり。頑固者だ。

貴方はどちらだろうか。

私は両方だ。

後ろを向きいつまでも濡れながら、風が吹けば飛ばされる。

それが現在というものなのだろう。

嵐なのだ。


人生というのは道ではない。旅路でもない。

常に先は荒れていて何も無く、辿ってきたルートには戻れない。

そんなものは道とは言えない。

見えぬ壁に押され続けながら進み、立ち止まることは許されず、その見えている範囲の景観をどう耕すかが人生の質である。

だがその景色も嵐の中では形状を保たず、変動を続け、流されていく。

景色は予測できる未来である。

嵐の中でもイメージをハッキリさせ、形を保ち続けられれば、それが努力であり、身につく。

流されればそれは怠惰なのだ。

私の景色は常に豪華絢爛だ。

立派なビルが立ち、綺麗な公園があり、自分によく似た銅像が在る。

だが、この景色はいつまでも変わらない。

理由は後ろを観てみればすぐわかる。

後ろには荒野しか残っていない。

透明な壁という嵐に全て流されてしまっているのだ。

昔、流されずに残ったなにかはもう見えない。

見えなくなった過去の栄冠など、存在したことを証明できる術はない。

つまり、何も無い。


後悔というのは実に良い刺激だ。劣等感をより効率的に引き出して、負の快楽物質を充満させる。

成功の瞬間的な麻薬より、失敗による継続的なドラッグの方が断然お手頃なのだ。

効果時間がない。バッドトリップのままオーバードーズ。

常にトンデラレル。

馬鹿を言え。そんな自己嫌悪はクソだ。低俗極まりない。

そんなものは目先の快楽じゃないか。

結局は後悔の分岐路に戻りたがって、いつまでもその足枷を引き摺るばかりで次に生かさない。

そもそも分岐を間違った時点で生きてはいない。

死んだ数だけ足枷が重くなっているのだ。


このドラッグを治す薬を処方してください。

きっと私は、一気に全て飲んでくれるでしょう。

そして過剰摂取で死ぬのです。

ああ、ドラッグも薬も変わらない。


ーーーー後悔麻薬

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後悔麻薬 佐藤 田楽 @dekisokonai

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