daughter of シンデレラ

もめなし

daughter of シンデレラ

みなさんは“普通の生活を送っていた少女がある魅力的な青年と恋に落ち様々な困難を乗り越えながらも、いっぱしのヒロインへの階段をあがっていく”というストーリーを何というかご存じだろうか。まぁ、大体の人はこれを『シンデレラストーリー』という。このお話はそんなシンデレラストーリーにこう焦がれる女の子の物語である。

「でもなぁ、あのときにママがガラスの靴を落とさなかったら僕は今頃どうしていたんだか」

パパはだしぬけにこういった。カチャカチャとステーキを切るナイフを動かしながら。そして、上品に口に運ぶ、パパのこのセリフはいつもこの一連の動作とともに私は毎日聞いている。そしてそして、

「そうねぇ、十二時の鐘が鳴ってしまうもんで焦っていたのよね。あれから大変だったのよ、馬車に乗り込むまで片方の靴で走るなんて大変で大変で。でも、あの出来事であなたとは結ばれることができたわ」

うん、だよね。まぁ、毎日繰り返されている会話なのだから次にくる言葉もおのずとわかってくる。

『やっぱり赤い糸で結ばれていたんだよねぇ』

お気づきだろうか。この夫婦らは何者であるかということを…… そう、かの有名な年老いたシンデレラとその王子なのだ。そして、私はその二人の子供。

「ったく、なんなの、あのバカップル。もうとっくに五十超えてるくせにいつまで新婚気取りなのよ」

 自分の部屋に戻った私はいつものようにこの言葉をため息をする。ママはシンデレラ。パパは王子。ママはパパによる落とした“ガラスの靴”の持ち主探しにより見事王子の嫁となる権利を得ることができた。いまは、パパは優秀な男性を養子に取り、いまは、特に職にも就かず、悠々自適な生活を送っている。そうして、私たち3人家族は翁宮殿にすみ、豪華な食事を食べて暮らしている。今の私は何不自由なく暮らしている。でも、でも、でも――

「私だって、素敵な出会いがしたぁぁい!!」

さて、私は明日にも二十六歳を迎える。そんなバースデイは私にどんな魔法をかけてくれるのかしら……

(※少々、お見苦しいようですが、温かい目でお読みになってください。)

 チュンチュン

夢の世界から、スズメの鳴き声が私を連れ戻す。あぁ、起きなくては…… 窓を開けて息を吸い、

「おめでとう! 誕生日の私!! 白馬に乗った王子様がバラの花束をもってやってきているはずなんだけど……」

 まぁ、きてませんよね、はい。期待した私が悪かった。朝は、誕生日の朝は置きかけの私にさわやかな目覚めをもたらした。と、ともに、一つ年をとったことへの絶望感が後から押し寄せる。

「あ、あと4年でみ、三十路……」

 この国では約半数の人が二十五歳で伴侶を見つけ、結婚するのだ。ママがパパと運命的な出会いをしたのが十七歳の時。このあいだも、召使の一人が出産のために屋敷を去っていった。私の周りではもう誰もがパートナーを見つけている。あ、いや、違った。あの二人はまだ……。 そう、あの血のつながっていないママの姉たちだ。ママからはあまり話を聞かないが、あの二人からひどい嫌がらせを受けていたことは何となく知っている。まぁ、ママは素晴らしく美人、あの二人はブ…… いや、あまり良いとは言えないお顔なら嫉妬するのは当たり前だろうが。

「そろそろ、朝食の時間だわ」

 私ははぁ、とため息をついて部屋をでた。


「そろそろ、お前も結婚を真剣に考えるべきだ。そこで、ママと相談してお前の婿選びをこの屋敷の者一丸となって探したいと思う。素敵なパートナーがお前へのなによりのママとパパからのバースデープレゼントだ」

 と言われましても…… いつもより少し豪華な朝食に舌鼓をうっている最中にパパが言い出した。いやいや、なんでそうなる!? 私だって自分の意志で恋がしたいのに。

私は思わず握りしめていたワイングラスを手で握りつぶした。

「やっぱり、パパたちも危機感持っていたのよね。そりゃそうよね。私を、あの二人みたいにしたくないはず。でも、こんな強行的な方法って」

 どうにかして、どうにかしてこの状況から逃れないと私にとっての幸せがなくなってしまうかもしれない。私はどうするべきか、何をするべきか。


――三十年後

「あのとき、あなたが拾ってくれなかったら私たぶんあなたと出会っていなかったわ。そしたら、あの子も」

私は、わが子の幼き頃の写真を目を細めて見る。そして、愛おしそうに向かい側にいる少し白髪のまじった夫を見る。そして、彼もまた微笑み返す。

「その話何回も聞いたよ。でも、あの時君がスマホを落とさなかったらいまここで君の作ったこのシチューにたどり着けていなかったよ」

 そう、三十年前の二十六歳となった夜、私は国を抜け出そうとした。しかし、他国へと逃げる途中、私はスマホを落としてしまった。ロックはかけてあるものの、つい最近スマホを落としたことで事件に巻き込まれる映画を見たばっかりだった私は怖くなって必死に探した。私が、スマホを見つけたとき、ちょうど彼がいた。まぁ、そこからちょいちょいとなって、パパのちょっとした暴走を止めることができた。もう、この世にはあのバカップルはいない。二人とも同じお墓の中で仲良く眠っている。夢の中で出てくる二人はまだラブラブだ。


 ママがパパが出会ったのは偶然ではなく、必然だ。それと同じように、私と彼との出会いも。気づかないうちに赤い糸は存在していて、出会うべき相手とつながっている。

そう、あなたと誰かみたいに――

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