はだかじゃない王様

昆布 海胆

はだかじゃない王様

昔々、オシャレが趣味なとある国の王様が居ました。

王様はいつも新しい服を着ては皆にその服を披露し、世界一オシャレな王様は自分だと誇っていました。

ある日、そんな王様の元へ一人の仕立て屋であるダミアンがやってきました。

仕立て屋ダミアンはオシャレな王様にこう宣言します。


「世界一のオシャレな王様には自分の商会で作れる『愚か者には見えない布』で作ったこの世で一番珍しい服を是非身に着けて頂きたい」


王様は世界一珍しい服に非常に興味を持って作ってもらう事にしました。

なにより、家来に愚か者が居るかどうかまで調べられるという事に大喜びで注文する事にしました。


しかし、その仕立て屋ダミアンは詐欺師で商会の不出来な跡取り息子だと王様は知りませんでした。

ただ世界一珍しい服が作れるのであれば誰であろうと構わない、それだけが王様の考えだったのです。





服が出来上がるまで日数が掛かるとの事、王様はそれを聞いてどんな布で作られているのか非常に興味が尽きず。


「大臣よ、様子を見てくるのだ」


と家来で一番正直者と言われ、信頼のおける大臣に様子を見てくるように伝えました。




「見て下さい、こう角度を変えると色が変わるんです!」


仕立て屋が居る商会を訪ねた大臣は個室に案内され、ダミアンが布を披露してきました。

ですが手でヒラヒラと動かしているであろう布は大臣の目には見えなかったのです。

正直者の大臣は非常に悩みました。

布が見えなければ愚か者、下手をすれば大臣の座を辞めさせられるかもしれない。

そう考えた大臣は王様の元へ戻り・・・


「大臣よ、どうだった?」


期待に目を輝かせる王様にダミアンが説明した通りの説明を聞かせるのでした。

嘘ではない、ダミアンが言った通りの事をそのまま伝えたからです。

それを聞いた王様は笑みを浮かべ。


「そうかそうか、それは楽しみじゃのう」


と嬉しそうに笑顔を大臣に向けます。

その顔を見た大臣は胸が苦しくなりますが、愚か者認定をされるのが怖くて本当の事を伝えられませんでした。





数日後、あと何日で服が完成するか楽しみな王様は、体調を崩した大臣の代わりに真面目な役人に聞きに行く様に伝えました。

早速ダミアンの元を訪れた役人が尋ねるとダミアンは答えます。


「あとはこのマントを縫ってしまうだけです。王様にピッタリでしょう?」


そう言われた役人の目には勿論服どころか、布すらも見えません。

何も返さない役人にダミアンは尋ねます。


「おや? まさか、見えないとか?」

「い、いや、とても立派なので驚いていただけだ」


こうして真面目な役人も王様にダミアンが伝えた通り、明日には出来上がると報告してしまいました。





翌日、ダミアンが王城に訪れるその時をビクビクとしている家臣たちが居ました。

もしも服が見えなかったら愚か者認定されて、仕事を辞めさせられるかもしれない。

そう考えると誰もがはらはらしていたのです。

そして、ダミアンが出来上がった服を綺麗な箱に入れて持ってきました。



「王様、これが出来上がった世界一珍しい服です!お気に召しましたか?」


そうダミアンが口にして箱から何かを持ち上げる動作を行いました。

ですが、王様だけでなく、誰の目にもそこには何も見えていません。

シーンと静まり返る部屋、ダミアンが少し時間を置いて尋ねます。


「どうされましたか?」


その言葉に王様だけでなく誰もが見事な服だと拍手を送ります。

そして、王様はダミアンに告げます。


「見事な服だ!よくやった!」

「ありがたき幸せ」


王様は周囲を見渡し、その服の素晴らしさを誰もが誉めている様子を確認し病み上がりの大臣に告げます。


「大臣、役人、お前達もあの服の素晴らしさがわかるか?」

「はい!勿論で御座います」

「まさしく見事な服です」


大臣に続き、下見に行った役人も少々焦りながら答えます。

それに気分を良くした王様はダミアンに告げました。


「素晴らしい服を作ってくれたダミアンよ、本当にありがとう」

「いえ、王様に喜んでいただけたのであればこれ以上の幸せは御座いません」

「うむ、ところでその布はまだ沢山あるのか?」


王様のその言葉にダミアンは唖然としたまま固まります。

ですが直ぐに我に返り返答します。


「はっ、ご希望でしたら何着でも作らせていただきます」


その言葉に王様は笑顔で告げます。


「そうかそうか、では全ての金を出そう。こんな素晴らしい服を作ってくれたお前の商会を贔屓したい。お前の所の商会の制服を全てこの布で作り従業員に着させるのじゃ!人手が足りなければこちらからも何名でも用意しよう、大臣場内に居る手の空いている裁縫技術の有る者を直ぐに集めよ」

「かしこまりました」


その言葉に固まるダミアン。

それはそうでしょう、王様からの特別な依頼と言う事で個室を使用し数日掛けて誰の目にも見られぬように行った今回の詐欺。

勿論商会の人間は誰一人として知りません。

ですが、この場で嘘だったなどと告げようものならダミアンがどうなるかなど火を見るよりも明らか。

いや、ダミアンだけでなく商会の人間全てが処刑されるのは間違いありません。

逃げようにも今いる場所は王城の中、出る時には数名が付き添いで着いてくる。


顔面蒼白になったダミアンはその後、王の家来数名と共に商会に戻り家来達が居ない場所で商会の皆に土下座で謝罪しました。

勿論、全員に滅茶苦茶怒られましたが、自分たちの命が掛かっているという事もあり彼らは結託しました。

それは布が見えない事を隠している家来達をも騙す壮大なプロジェクトの始まりだったのです。






数日後、男も女も下着姿で接客を行う商会が生まれたのは言うまでもないでしょう・・・

逆にそれが話題になり商会が発展していくのはまた別のお話・・・

そして、王様は・・・


「王様、あの素晴らしい服は着ないのですか?」

「あぁ~あれな、どうにも腹回りが合わなくてな・・・ハハハ」


生涯一度もその服を着る事はありませんでしたとさ・・・

めでたしめでたし

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