大人になれたかな。
湊 陽愛
出会い、インポッシブル
始まり、今となっては始まりと呼べるがその時はまだただの途中だ。
『今日一人?』
行きつけの地元のBARの従業員が話しかけてくる、ちなみにこの従業員は5年後に独立して自分の店を出す。
そこでの話もあるがそれはきっと番外編でいつか書こうと思う。
いつもは仲のいい友達と2人で来るのだが、従業員やマスターとも顔見知りになったのもあり、今日は一人で会社の飲みの帰りにちょっと寄ってみた。
初めて一人でBARに来た、というよりは初めて一人で飲食店に入った。
今まで牛丼屋も含め一人で外食したこともなければ、飲みに行くなんてこともなかった。
L字のカウンターの端っこにすっごい綺麗な人が座っている、歳は大体20代後半くらいだろうか?風貌や落ち着いた雰囲気的にもう少し上にも見える。
俺は結構ちらちら見ながら目を合わせる勇気さえないが、若気の至りもあり、何とか彼女との接点を持とうと必死だった。
ちなみに俺の席は彼女とは一番遠いL字のカウンターの一番端っこだ。
間にうるさいにいさんと変なねえさんとおっちゃんが挟まっていて邪魔だ。
しかし近づいて話そうなんて、大胆な考えさえ思い浮かばないほど、初めての一人飲みに委縮していた。
どうしたもんかと何となくカッコつけてウィスキーのロックなんかを飲み進めるうちに徐々に酔いが回り、気が大きくなっていった、いわゆる酒乱と後に呼ばれるようになるのだがまだまだ先の話だ、今はまだお酒を知り始めの小鹿ボーイちゃんの俺は従業員を通して徐々に彼女と会話していくようになる、先に話しかけてきたのは彼女か俺か、俺が覚えているのは彼女が従業員を通し、お姉ちゃんの姉弟がいそうと問いかけてきた部分だけだ。
従業員に伝言を頼み俺も答える、『よく言われますが姉はいません、長男です。』
なんともまじめでつまらない回答だろう。
ちなみに俺は2つ離れた弟との2人兄弟だ。
しばらく従業員を通してカウンターの端と端との伝言ゲームは続いた、その間声は聞こえないが時々こちらに送る視線や彼女のちょっと色気のある仕草をみながら俺はひたすらに興奮し続けた。
彼女がトイレに立ったタイミングで俺も席を立ち、トイレの入り口付近で出待ち、今思えば少し大胆だったなと思う。
気が付くと彼女は俺の隣に座り、特徴のあるかわいい声で俺に話しかけていた、やっと彼女の隣を確保した俺は、酔っぱらったうるさいにいさんやおっちゃんに茶化されながらも彼女と直接話せる時間を堪能していた。
『今夜はC-LOVEか!?』と酔っぱらいのおっちゃんが茶化す。
C-LOVEとはこの付近で有名なラブホテルだ。
俺は内心うるさい、と思いながらも、おっちゃんナイス!なんて思っていながら、彼女となんとも言えない顔で照れ笑いをし合った。
結局ふたりの時間を堪能しすぎた俺たちは朝方一緒に会計を済ませBARを出た。
俺はかなり飲んでいたし、もはや彼女のことをとても性的な目でみていた、彼女もまたまんざらでもないような気がした。
思い切って言葉を発する『二人で静かに飲みません?』どこで知ったのか、自分で作ったのか、俺は飲みの場にラブホを提案する。
時刻は朝の5時近く、やっているお店なんてないし、それでもこの人と離れたくなくてやっとの思いでひねり出した言葉だ。
『結構普通にラブホで飲んだりするんですよ、家のみ感覚です。』
『いやらしいこと抜きで。』
彼女もその気だったのかはわからないが、コンビニでお酒とちょっとしたつまみを買い、タクシーに乗り込む、ラブホを指定するのは恥ずかしいので、手前のコンビニで降りて、二人で歩いた。
部屋を選ぶタッチパネルを前にし、俺の緊張はピークに達していた。
自分から誘っておいて、今の自分のこのありさまにひどく後悔した。
いままでナンパなんてろくに成功したこともなかったのだが、今日は出来すぎている、友達が隣にいたら鼻を高くして、自慢しまくっているところだ。
もしかしたらこの後、家に帰る途中に交通事故にあって、死んでしまうのかもしれないとか思いながら、部屋に入る。
二人きりの密室で缶チューハイと彼女が好きだというコンビニのワインを開けながらやっと俺は彼女のことを知っていった。
名前は麻紀さん。
お酒が好き(特にワイン、シャンパン)独身で、直近では弁護士の秘書(本人は右腕的な存在だったと言っていた)、親の介護で仕事を辞めざるを得なくなり実家の近くに戻ってきて住んでいる、今はお兄さんからの仕送りで生活をしている(お兄さんは銀座に通うやり手の商社マンらしい)、ちなみに実家は建設会社、つまり社長令嬢ってやつですかね。
そんなことにも驚いたがなによりかにより、俺が一番驚いたのは、20代だと思っていた彼女が実は37歳だったということだ、ちなみに俺の年齢は当時齢21歳のスーパーフレッシュ小僧だ。
一応会社に務めてはいたが、人によってはまだ学生でもおかしくない年齢。
うーん、これは遊ばれている、こちらが誘ったかと思いきや、すべてはこの美魔女の手のひらで踊らされているのかもしれない。
暇を持て余した美魔女の暇つぶしにまんまと乗っかった憐れな若僧だ。
まったく夜の世界は奥が深いぜ。
しかし俺も漢だ、彼女に比べればまだまだかもしれないが、それなりに恋愛もして修羅場もくぐってきたと自負している。
据え膳食わぬは男の恥。
そんな言葉を胸に秘め、俺は今宵の最終目標を定める。
この美魔女とSEXをする。
最初の言葉はどこへ行ったのか、もはや遊びでもなんでも、お互い様だ、やってしまえばこっちのもんだ、俺の自慢話として語り継ぐ。
自分でも思うほど、俺はほとほと最低な野郎だった。
そうと決まれば後は進むだけだ。
俺は徐々に彼女にお酒を促し、段々とエッチな雰囲気を造っていく。
若者を舐めるなよ、おばさんめ。
最後にはベッドの上でヒーヒー言わせてやるぜ…
数分後…
くあ、区はb、うッ!?
彼女の手が口が俺の身体を縦横無尽に這いまわる。
なんだこの感覚は、風俗にいったことがないわけではないがそんなものの比ではない、熟練の業はプロよりも尊いとか思いながら、完全に責められ、変な声を出してしまっている俺はとても惨めだ。
さっきまでの威勢はどうした俺。
いやもはやそんなことはどうでもいい。
どうでもいいんだ!そんなことは!
俺は俺至上、体験したことのない気持ちよさを体感しながら。
まだ彼女を気持ちよくさせてあげられてないことに、とても罪悪感と使命感を感じていた。
俺はもうこのままでよかった。
飲んでたし、朝まで起きてたし、別にもうこのまま果ててしまってもいい。
そんな自分に甘々な俺をプライドの部分の俺が攻め立てる。
戦場だ、事件は現場で起きているんだ。
浸っている場合じゃない。
お前は男だろ!
そうだ俺は男だ!
俺のプライドの部分は、このまま本日を終えようとしていた俺自身の気持ちをなんとか駆り立てる。
今度はこっちの番だぜねえさん。
俺は快楽の温床から無理やり身体を起こし、彼女に覆いかぶさる、さっきまではありがとう。
とても素敵な時間だったよ。
ここからはもっと素敵な時間を捧げよう。
今度は俺が徐々に反応を確かめながら彼女の身体を移動する。
『アッッ、』と彼女から声が漏れる、へっへっへ。一つめの性感帯を見つけ調子に乗った俺は引き続き彼女の身体を探検する。
その間も手は休ませない、相手とのレベルの差は歴然だ全神経を集中しろ!
でなければやられる!
しばらく彼女の身体を探ったあと、いよいよ俺は最終段階に進もうとする。
!?
準備万端じゃねぇか、おいおい、この淫乱女め、俺を弄んだことを後悔させてやるぜ。
へっへっへ。
俺はいよいよ来たる、俺とねえさんの正面衝突に心を弾ませながら、どんな結果になろうともスポーツマンシップに乗っ取り、正々堂々戦うことを心に誓う。
アーメン。
いよいよ俺とねえさんの聖戦が始まる。
!?!?
なに!?
どういうことだ?!
俺の脳内を高速で言い訳が駆け巡る。
目線をそちらにやるのが怖すぎて、ベッドに着いた手が震える。
オーマイゴッド。
これは緊急事態だ。
彼女にはこの上ないほどのエロスを感じていたし、俺自身もまだ若い、もちろん今までだってこんな経験はなかったが、思い切って目線を下にやると、先ほどまで快楽を共に楽しんでいた俺の分身が力なく首(こうべ)を垂れて、やる気をなくしている。
う、そだろぉう?
今日は休みだ、まだ寝なくてもいいと思う、相棒には言ってなかったっけか?
ここにきてのいきなりの相棒の裏切りに困惑しながらも、彼女にバレないように左手で起こしにかかってみる、なんとか一瞬起きたかと思いきや、またすぐに眠りにつく相棒。
もうバレる、いやもうバレているかもしれない。
やばい、恥ずかしい。
ありえないだろう、何事も最初が肝心っていうよね。
ここで終わったら、俺の自慢話ではなく、ただの彼女のネタ男だ。
ただ寝た男だ、なんつって。
もうこんな変なことしか考えられない。
やはり彼女も異変に気付いたのか、もう一回してあげようかなどと気を遣われる始末。
俺のプライドもあるが、何より彼女に気を遣わせてしまっているのが、誠に申し訳ない。
やはり年齢なんかも気にさせてしまっただろうか。
いろいろと考えたのち、気が付くと俺は彼女を全力でマッサージしていた、全力で腰のマッサージが終わり肩を揉んでいる最中に、彼女が振り向き『そういうときもあるよ』と言って、やさしく抱きしめてくれた。
俺はなにも言えずに彼女の胸に顔をうずめて、小さくうなずいた。
大人の女性のやさしさに触れた。
俺は美魔女に完敗した。
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