第40話
【瑞希】
最初はどうなることかと思っていた訓練も、例の蛸壺で身体が鍛えられ、脳に格闘経験や射撃経験が蓄積されて行くことで、少し自信が付いてきていた。
最初は全く敵わなかった武蔵の攻撃も、何とか受け流すことができるようになり、武器の扱いも慣れてきた。
今日は東京からゲストが来ると聞かされていたが、誰が来るのかは教えてもらっていなかった。
午前中の訓練が終わる頃、僕らが乗ってきた大型のドローンがヘリポートに着陸するのが見えた。
あれにそのゲストが乗っているのだろう。
「誰が来るのかしらね」
果歩も気になるようだ。
遠くから見ていたら、ドローンから子どもが降りるのが見えた。
「あれは...」
武蔵が何か気づいたようだ。
僕らは昼食後に会議室に集められ、鍊からそのゲストを紹介された。
「彼女は假屋崎静さんです。以前お話しした、皆さんの兄弟の一人です」
やっぱり武蔵の言ってた通りだ。
失踪してたんじゃなかったのかな?
「こんにちは。はじめましてだけど、一応俺っちは遺伝的に言うと、君たちの親ってことになるから、そこんとこヨロシク!」
は?
何言ってんの、この子。
【清水坂 孝】(2週間前 環境省 地球環境局)
さて、徳永を見つけ出すために徳永チルドレンを集めたのはいいが、正直何処にいるのか全く見当がつかない。
アメリカの線が濃厚とは言え、その大地はあまりに広い。
それにアメリカに渡る手段も今はない。
何度も送った探査ドローンは全て落とされた。光学迷彩を纏っても何故か探知されるのだ。
このことからも、アメリカに徳永がいる可能性が高いと言えるだろう。
今回の地球氷河期化も、徳永の口ぐせだった「地球をキレイに」という目的を考えると、辻褄が合ってしまう。
人類の滅亡だ。
単純に地球をキレイにすることだけを考えるなら、人間はいない方がいいと考えるのが普通だ。
それを止められるのは、徳永の子どもたちしかいないと考えるのは早計だろうか?
徳永は天才だ。恐らく歴史上の天才の中でも抜きん出ている。
数々のオーバーテクノロジーを次々に生み出して行った。
その遺伝子を継いだ徳永チルドレンならば、きっと止めてくれるはずだ。そう願いたい。
ガチャ!
そんなことを考えていると、局長室のドアが突然開けられ、中学生くらいの少女が入ってきた。
この子は確か...
「たかちゃん久しぶり!」
開口一番、懐かしい呼び方で自分を呼ぶこの子は?
「徳永?」
「そう。やっと会えた。ホントに色々あってさー。しかし、たかちゃん老けたね...」
「いや、何で子どもの姿なんだ?というか、君は失踪した假屋崎さんじゃないのか?」
「だから色々あったって言ってるでしょ!」
そう言うと、見た目女子中学生の徳永は今までの経緯を話し始めた。
我々の予想通り、徳永はアメリカにいたらしい。
失踪した理由は、マイクロマシンの散布をしていた時、ある子どもに出会って、話が弾んでそのままその子に付いていったという話だが、その子どもというのが、徳永の考えていた今後の施策を全て言い当て、具体的な進行プランも説明したと言うのだ。
その話に魅了されてしまった徳永の第2人格が、第3人格である今の徳永を無理やり心の奥底に封じ込めてしまったという。
第2人格は真面目で合理的、融通の効かない、今の徳永からするとつまらない奴らしいのだが、何故かその子どもに同調することで徳永の精神を強力に支配してしまったらしい。
ちなみに徳永の第1人格は幼児の時のトラウマで凍結してしまっているそうだ。
そうして徳永③は何もできないまま、徳永②はその子と一緒にアメリカの発展に向けて動き出し、宇宙開発、兵器開発に携わり、数年後にはその子との間に子どもを作る関係になったというのだ。
そして、遅々として進まない各国の地球環境改善施策に業を煮やした徳永②は、メキシコ湾流をはじめとする海流を変化させることで強制的に地球温暖化を止め、地球上の人間の数を減らすことにしたという。
これまで何もできずにいた徳永③だが、ある時自分の精神をリンクできる人間がいることに気づいた。
それが自分の子どもである假屋崎さんだったのだが、その時假屋崎さんは暮らしていた施設の屋上にある給水タンクに入って自殺を図っていたらしいのだ。
母親を亡くしてから、ずっと生きる希望を失っていたようだ。
その時假屋崎さんの脳は酸欠により意識が消失、ほぼ脳死状態となった。
その空になった脳に徳永③は意識をリンクさせ、假屋崎さんの蘇生を試みた。
しかし、彼女の意識は戻らず、徳永③が彼女の精神となって、自らを蘇生して今ここにいるということらしい。
肉体的にも多少損傷があったため、今までこっそり施設の治療装置の中で治療をしていたというのだ。
「話は大体わかった。まだかなり違和感はあるが。お前は今の地球の状況を良しとするわけじゃないんだな?」
「うん。地球をキレイにするのが俺っちの役目だけど、皆いた方が楽しいじゃない?」
「そうか。ではお前の本体を止めるのを手伝ってくれないか?」
「そのつもりで来たんだ」
こうして徳永は別人格の自分を止めるため、我々に協力してくれることになった。
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