第29話

 アメリカは「ビッグバンインパクト」以降、無限の電力を活用して、持ち前の技術力で様々なモノを作り始めた。

 特に力を入れたのが宇宙開発と兵器開発だった。


 2020年頃に月に水が大量に見付かって、徳永氏の発明した水で発電する常温核融合炉があれば、月に惑星探査の為の基地を容易に建造できることが分かってから、宇宙開発の為の技術に力を入れ始めた。

 太陽系の外惑星は資源の宝庫だから、月を拠点に多くの資源を手に入れることができる。

 宇宙エレベータのおかげで以前よりも容易に月へ向かうことができることも相まって、月面基地の建設計画が進められた。


 並行して兵器についても開発を加速させた。

 徳永氏の作った光学迷彩と同じレベルの迷彩を纏った亜音速で飛行するドローンも発表された。

 ドローンといってもプロペラで飛ぶのではなく、超電導タービンという技術でジェットエンジン並みの出力を有し、亜音速、無給油で世界中を飛び回れる機体だ。


 EPR通信が実用化されてから、全ての兵器は無人化し、地球上どこからでも遠隔操作が可能になった。

 光学迷彩によりレーダーは無力化し、いつ領空侵犯されたかも探知できなくなってしまった。

 当然他国の領空内では光学迷彩を解くことが国際法で定められたが、探知できないのであれば守る必要はなかった。

 戦車のように見付かって撃たれることを前提としない、無装甲、低騒音の自爆型ドローンが大量に生産され、秘密裏に各国の首都近郊に配備された。


 こうして、アメリカは世界中の国の首都をいつでも攻撃できるオプションを手に入れた。

 かといって、世界の警察を自負するアメリカは表だった他国支配は行わなかったものの、その力は全世界に及んでいた。

 全世界をアメリカという一つの国に纏めようと、本気で画策していたと見られている。


 しかし、そこにこの地球氷河期化が訪れて、アメリカがどうなっているのか全く分からなくなってしまった。

 他国と同様に大部分が雪に覆われているようだが、一部の地域は街ごと光学迷彩に覆われていて、様子が分からない。

 そんなに大きな光学迷彩があるということは、大規模な発電と人の生活が行われているということだから、アメリカも常温核融合炉が使えているはずだった。

 そして、探査用のドローンが何度もアメリカへ向かったが、1機もたどり着かなかった。


「早速ですが、皆さんにはこの後すぐに訓練施設に向かっていただきますが、訓練のアシスタントをご紹介します」

 鍊がそう言うや否や、また会議室のドアが開いて、一人の女性が入ってきた。


 え?

 超かわいいんですけど...

 アイドルとかじゃないの?

「彼女の名前は時子・ジ・アンドロイド、徳永秀康氏が開発したAIコンシェルジュのプロトタイプを搭載したアンドロイドです」


 えー?!

 巷にいるアンドロイドはまだハッキリとロボットだと分かるのに、この人、自然すぎる。

 でも確かにかわいすぎるな。


「皆さんはじめまして、時子・ジ・アンドロイドと申します。時子と呼んでくだされば幸いです。皆さんの訓練のサポートをさせていただきます」

 声もかわいい。かわいすぎるー!

「こちらの楢原一尉にも指導していただきます」

「3ヶ月で一端の兵士に育ててあげるから、覚悟しててね」

 兵士?

 僕ら、兵士になるのか?


 さっきはごねていた品川さんも、なぜか素直に従う様子だ。

 時子さんにサポートしてもらえるのであれば、参加してもいいかも、会社には許可を取っていると言ってたし。

 と、甘い考えで参加することにしてしまった。


【果歩】

 私たちは本当にそのまま大型のドローンに乗せられ、どこかへ向かった。

 このドローンは陸上自衛隊のチヌークだわね。

 普段自動運転のクルマに乗ってばかりいるから、自分が何処に向かっているのか全然分からないけど、多分西に向かっているんじゃないかな。


 しかし、あの清水坂鍊という人、心の中が全く見えなかった。

 こんなに心が見えなかった人は初めてだ。

 さっきの突拍子もない氷河期の話、全然信じてないけど、確証が持てない。

 ただ、これが就職に繋がるって言うなら、少し付き合ってみても損はないよね。


 訓練をするって言ってたけど、子どもも混じっているこのメンバーで何をやる気なのかしら。

 見た感じ、一人も兵士に向いてる人を見かけなかったけど。

 当然私は運動もチームプレーもしたことないから、すぐに脱落するわね、きっと。


 隣に座っている藤堂って言ったかな、この人、何か心の中空っぽだし。

「あなた、さっき人を心臓麻痺にできるって言われてたけど、ホント?」

「え、あ、いや、そんなこともあったような...」

 突然話しかけられて明らかにキョドってる。

「人を殺したことがあるってこと?」

「いや、殺そうと思った訳ではなくて、たまたま死んじゃったっていうか...」


 お、見えてきたぞ、小学校の先生と、高校のときの同級生?

 何かひどい目に遭わされてたみたいね。

 確かに殺そうと思ってではないようだけど、かなり強く恨んではいたみたい。

「人を殺しちゃって、罪の意識とかないの?」

 あまりにも心の中が空っぽだったんで聞いてみた。

「その時はスゴくショックだったけど、今はそれほどでもなくて、やっぱおかしいのかな、僕」

 どうなんだろう、普通良心の呵責に苛まれるとかじゃないのか?

 実際に自分に起きないと分からないな。


「あなた、さっき言われた任務ってやつ、あまり抵抗ないようだけど、大丈夫なの?」

「ああ、確かに不安だけど、会社には許可を取っていると言ってたし」


 お?

 さっきのアンドロイドの姿が見えてきたぞ。

 何だ、この人さっきのアンドロイドに恋しちゃったんだわ。

 大丈夫かな、この人。


 そうこうしていると、ドローンは緑豊かな場所を飛んでいて、窓から外を見ると前方には富士山が見えた。

 やっぱり西に向かってたんだわ。

 富士山がどんどん大きくなってきて、下に湖が見える。山中湖かな。

 ドローンは下降し始め、陸上自衛隊の基地みたいな所に降りようとしている。

 やはり訓練というのは自衛隊での訓練なのね。


【武蔵】

 なんだ、何処に行くのかと思ったら富士学校じゃないか。

 ここは小さい頃母ちゃ、母に連れられてよく訓練しに来たところだ。

 流石に6歳で青木ヶ原樹海の真ん中に置いてかれた時は、心細くて泣いてしまったが、教えてもらった通りに虫を食べたり、水を集めたりしながら無事に富士学校まで帰り着いた。

 実際には光学迷彩を纏った自衛隊員が近くに寄り添っていてくれてたらしいが、全く気づかなかった。

 今なら樹海の何処に捨て置かれても24時間以内にここに戻って来られる自信がある。

 さて、どんな任務かと思ったら随分特殊な任務だな。

 素人と組んでも俺の力が発揮できるとは思えない。

 どう見ても足手まといだろう。


【茉莉】

 ちょっとー、地球氷河期化って本気?

 これじゃオリンピックなんか開かれないじゃない。

 地球上の人の3分の2が死んじゃったって、もうダメなんじゃないの?

 それに訓練て、花の女子高生の青春はどうなるのよ。

 まさかこのまま部長センパイに会えないなんてことないわよね...

 それにしても私が「日本の子」だったなんて、道理でお父さんの写真がないわけだわ。

 例の任務とやらをやり遂げれば会えるってことよね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る