間違えちゃった

 もう二十年以上前のお話。

 当時中学生だった娘が修学旅行から帰ってくる日のこと。

 車での迎えが必要で、私は念のために仕事を休み自宅で待機していた。

 だって、予定は未定ですから。

 そうは言っても、学校にバスが到着するまでにまだ二時間ほどある。

 だから、時計を気にしながらも昼寝をしていた。

 突如、夢の中に町の無線が響き現実へ引き戻された。

 当時は、町の放送が無線だった。田舎あるあるで、現在は光通信で有線。進化したのかどうなのか。

 放送の内容は、修学旅行バスの学校到着を知らせるものだった。

 予定よりかなり早い娘のご帰還。

 学校までは、車で五分ちょっとだ。慌てる必要もない。それなのに寝惚けていたからなのか、焦っていた。


 家を出て一分も経ったかどうかの所で警察が旧道に入るよう促した。そこは、いつもスピード違反の取り締まりが行われる約束の場所。

 私は、現在の居所に引っ越してきてから運転免許を取った。その時が初めての違反。乗せられたパトカーの中から前方を見ると次々と車が誘導されてくる。


 思わず元気よく手を振った。娘の同級生のお母様は苦笑いしつつ車の中から会釈してくれた。もちろん、ネズミ捕りに引っ掛かった私のお仲間。

 すると、また知ったお顔の方が旧道へ入ってきた。連帯感からなのか再び大きく手を振った。すると、ご近所の少し年上の奥様は、顔を横に振り私を制止された。それもそう。だって、私が居るのはパトカーの中だもの。


 初めてのことで、異常にハイテンションだった。

 パトカーの中で説明を受け署名捺印し解放される瞬間。

 「」と、元気よく大きな私の声が車内に響いた。

 一瞬、時が止まったようで警察官も目が点状態。

 「あっ、間違えた・・・」

 そのあとは、言葉を選び直しおとなしく自分の車に戻った。

 highからlowになった私は安全運転で娘を迎えに行った。

 車中、今度は修学旅行帰りの娘がハイテンションだった。


 赤面したけど、今では懐かしい思い出の一つとなっている。

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