縁というしかー

 車検のために1時間以上かけて夫と街に出た。

 私たちの住む山間部は凍結防止のために冬場は塩が頻回に撒かれる。

 だから、下塗りをするために若干時間を要した。

 借りた代車でショッピングモールに出向くと、子供服売り場が目に入った。いつもなら私が見ようとしても夫は足早に通り過ぎていくのだが、今日は違った。自ら近づいてゆっくりと見ている。

 「どうしたの、孫が欲しいの」

 「うん、でもな。どうやろな」

 我が家は、娘も息子もとうに適齢期を過ぎている。昔と違って今の適齢期は何歳かは知らないけど。

 どちらも結婚する気は全くないようで冗談で「孫が、」と、言うとお互いに擦り付け合う状態。

 今となっては、もう半ば諦めている。

 縁があればと、一縷の望みは捨てきれないでいるのだけど。


 子供服を見ながら子供たちが幼かった頃を思い出す。

 親バカだけども可愛かった。

 通りすがりの中学生の女の子たちが二人を見て「かわいい~」と、声を張り上げてくれたこともあった。

 幼少期に娘は、どちらかというと人見知りが強かったが息子は違った。

 誰にでも話しかけていた。

 そう見ず知らずの人にも。

 まだ1歳にもならなかった頃に、預けていた託児所のおばさんが言った。

「お母さん、気を付けてよ。○○くん、いつか連れ去られるよ。だって、買い物に連れて出たら店の人と私が話していると怒るんよ。で、店の人が○○君を相手に話したら上機嫌なんよ。他のお客さんにもそうなんよ」

 

 その後も息子の人間大好き状態は続いた。

 旅行先では、宿泊施設のエレベーターで乗り合わせた見知らぬ恰幅のいいおじ様にもニコニコ顔で語り掛けた。

 「あんな、おじちゃん。これな、お父ちゃんに買ってもろうてん。ええやろう。」

 気の毒なそのおじ様は何が何かわからない様子で目をきょろきょろとさせていた。


 波の出るプールに連れて行った時のこと。

 波打ち際で姿が見えなくなった。

 ほんの一瞬だった。

 大慌てで声を張り上げながら探す。水中も周囲も。血の気が引いた。

 見つけた瞬間、安堵と共に唖然とした。

 「なあなあ、お姉ちゃん。○○くんのお父ちゃんとお母ちゃんおらんなってん」と、笑顔で言う息子。いやいや、居なくなったのはあなたの方と幼子に突っ込みたくなった。

 気の毒な見ず知らずの若く美しいビキニ姿のお姉さんは、ただただ戸惑っていた。

 

 人間大好き息子の武勇伝は、まだまだあったのだけども。

 人間大好きだったはずなのになんでかなあ。

 まあ、やっぱり縁と言うしかないのかしら。

 

 

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