姑さんは天然 Ⅰ

 もう十年以上前に遠い空に旅立った姑さんの思い出話。


 まだ結婚して間がない頃のこと。

夫の実家に帰省した私達は服をプレゼントしようと思い、姑さんと共にデパートへ行った。

 「気を遣わなくていいよ」と、言う姑さんの声を背に私はそれまでの経験から年齢に合わせて落ち着いた色合いの服を店員さんと選んでいた。

そう、紺系などを。


 ふいに朗らかな姑さんの声がした。

「私、ピンクが似合うんよ」

一瞬、店員さんも私も時が止まった。

声の主である姑さんは何のためらいもなく純真な笑顔をこちらに向けていた。


「そ、そうですよね。お客様は色白でいらっしゃいますから」

「そうよね、お義母さん。ピンクがいいですよね」

瞬時に踵を返したかのように、店員さんと私は競うようにピンク系の服を探した。

以降、20年ほど年に何度かはピンク系の服選びをすることとなった。


 私の中ではお義母さんの第一印象はこのピンク事件が強烈で緊張したはずの初対面の記憶はどこへ行ってしまったのか見当たらない。

 

 可愛いお義母さんだったなあ。

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